ちょうど2週間前にピックアップした 👇
行動経済学の第一人者 ダン・アリエリー教授の『アリエリー教授の人生相談室』から。
今回は、アリエリー教授のもとに寄せられた
” 意思決定を少しでも合理的にするには、どうするのが一番いい? “
という質問に対する回答・・
” 一番いい方法かどうかわからないが、私がときどきやる方法で、君に役立ちそうなものがある。
私たちは何かを決定するとき、自分中心に見ていることが多い。つまり自分の視点や特定の動機、その時々の感情にとらわれているんだね。
この視点から抜け出して、もっと冷静で合理的、客観的に状況をとらえるには、発想を転換して、「親友が自分と同じ状況にいたら、どんなアドバイスをしてあげるだろう」と考えるんだ。
たとえば私たちはある実験で、「一〇年来の主治医に高額の治療法を勧められたら、ほかの医師にセカンドオピニオンを求めるか」と被験者に聞いてみた。
するとほぼ全員がノーと答えた。次に、「友人が同じ状況にいたら、セカンドオピニオンを求めるよう勧めるか」と聞くと、ほとんどの人がイエスと答えたんだ。
これらの結果から、同じ医師に長い間かかっていると、医師との関係や義理を無視できなくなることがわかる。
でも他人にアドバイスするときは、自分の感情をある程度切り離して大局的にものごとをとらえるから、セカンドオピニオンを得るという、よりよい行動を勧めることができるんだ。
この「アドバイス方式」が、意思決定を合理的にする一番いい方法かどうかはわからない(し、もちろん唯一の方法でもない)が、
「自分以外の人、とくに自分の大切な人になら何とアドバイスするか」と考えるのは、私には役に立っている。”(p241-242)
があり、目から鱗ということでもないですが、プロが回答するズームイン、ズームアウトの切替えが印象に残りました。
踏み出せない状況から、踏み出せる状況に
本書では意思決定に関して、下記の具体的な質問が寄せられていて・・
” 息子は(中略)ニューヨークを離れるのをためらっています。
ニューヨークの生活は好きじゃないから、西海岸で私たちと一緒に暮らし、写真家として技術を(できればキャリアも)確立したいと、息子はいいます。
でも周りの人たちにはまったく違うことを勧められているようなんです。
ニューヨークの住民は、生活し、仕事を探すならニューヨークしかないと信じているようじゃありませんか。
ニューヨークでは芽が出ないから西海岸に引っ越すべきだと息子にわからせるのに、何かアドバイスやうまい方法はないでしょうか?”(p22-23)
これに対し、アリエリー教授は・・
” 引っ越すべきかどうかに関して、彼は三種類の決定バイアスに悩まされていると思う。
一つ目は授かり効果。これは、今の状況を基準にして、それ以外のどんな選択肢も、現状からのネガティブな変化ととらえてしまう傾向をいう。
息子さんの場合、(中略) 授かり効果のせいで手放すものにとらわれ、西海岸に引っ越せば手に入るはずのものに十分目が向かないんじゃないかな。
二つめが現状維持バイアスだ。現状を維持する決定は、現状を変える決定とまったくちがうように感じられるんだ。
私は昔、空軍司令官が部下のパイロットをこう諭すのを聞いたことがある。君たちは針路を変えるか、今の針路にとどまるかという決定を毎秒下しているのだから、
自分たちの行動をいつも能動的な選択としてとらえなくてはいけないと。でも残念なことに、自分たちの決定をそんなふうに考える人はほとんどいない。
私たちは引っ越す、結婚する、転職する、といったことは決定と見なしても、
同じ場所にとどまる、独身のままでいる、今の仕事を続けるといったことは決定だとは思わないが、少なくとも同じくらい重大な決定だとは思わないんだね。
意思決定にまつわる三つめのバイアスは、不変性バイアスだ。
私たちは、いったん決めてしまうと二度と変更できないように思われる重大な決定(結婚する、子どもをつくる、遠くに引っ越すなど)を迫られると、
その永続性におじけづいて、一層重大で手ごわいように感じる。しかも、そうした決定は後悔の余地も大きいんだ。
この三つのバイアスが相乗効果を生んでいるわけだから、息子さんが西海岸への引っ越しをためらうのは至極当然のことだ。
そこで考えるべきは、彼にこの決定を下させるために、どんなあと押しができるかだ。
私なら引っ越しを「六ヶ月のトライアル」といい換えてみるな。この視点に立てば、息子さんは引っ越しをしたつもりもなく(だから損失もない)、
現状を変えたつもりもない(自分は一時的に西海岸を経験しているニューヨーカーだと考える)から、西海岸に暮らすという決定は、それほど重大で手ごわいものじゃなくなる。
でももちろん、いったん西海岸に来てみれば見方はガラッと変わる。
息子さんはすぐにくつろいだ気分になり、新しい環境に慣れて新しい現状を確立するはずだ。
そしてその視点に立てば、西海岸に暮らしているという現状からのどんな変化も、重大で後悔の余地の大きい決定に思われるだろう。”(p23-25)
と回答。
身動き取れなくなっている状況を三つの要因で分析し、それぞれ「なるほど」と納得出来る解説を示し、そこに新たな視点(解決策)を与えるというプロセスが「プロらしいな」と。
その他、本書では「頼まれごとはどう断ればいい?」「貸したお金をちゃんと返してもらうには?」など
一〇〇の質問が寄せられており、行動経済学の見地からであったり、アリエリー教授の経験に基づいて
回答が示されており、書店で目次なり、具体的なやり取りに目を通した感触に手応えあれば、決断を後押しするきっかけが得られる一冊となる、かもしれません。