本の帯に「閉塞した時代に生き残りを模索するすべての人に勧める」との佐藤優先生の推薦が載せられている
『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』を読み始めて、10章あるうちの6章まで読み終えたので、そこまでのおさらい。
本書購入のきっかけも、先月(2017年9月)佐藤優先生の京都合宿企画「危機研究の名著『失敗の本質』を読む」に参加した際、
本書の紹介や引用があり、興味を持って購入。合宿時のお話しでは『失敗の本質』ではなく、『組織の不条理』を(合宿の)対象図書とすることが検討されたものの「型破り」であるとの評価から見送られたそうな。
『失敗の本質』とは異なるアプローチで迫る大東亜戦争
本を開くと、まず「本書を読むまえに」との説明書きがあり、
” 『失敗の本質』から『組織の不条理へ』”
という小見出しから
” ご存知のように、『失敗の本質』は、組織論の立場に立ち、(1)大東亜戦争における六つの日本軍の戦いの失敗の事例分析からはじめ、
(2)そこから日本軍の戦いに共通する五つの戦略上の問題点と四つの組織上の問題点を指摘し、
(3)さらにそれらが日露戦争以後に形成された白兵攻撃・艦隊決戦・短期決戦志向というパラダイムのもとで制度や技術や兵器が相互に補完的に強化されすぎたために、
大東亜戦争という新しい環境に直面したとき、日本軍はパラダイム変革を起こすことができずに失敗した。
したがって、日本軍の「自己変革能力」の欠如に「失敗の本質」があったという内容である。”(p4)
という『失敗の本質』の総括から
” 一九九〇年代、企業理論や組織論の研究分野では、完全合理性の立場から現実を分析をするのではなく、
人間はもともと不完全であり、限定合理的な立場から分析する研究がはやりはじめていたのである。
当時、この限定合理性の立場で研究していた私は、人間は非合理的なので失敗するのではなく、
むしろ合理的に行動して失敗するというきわめて不条理な現象が起こることに気づいた。
そして、このような立場から改めて大東亜戦争での日本軍の戦いを分析してみたいという思いで書いたのが、本書なのである。”(p5)
と、著者の菊澤研宗さんから本書出版の経緯が述べられています。
上記前段のもと、
第1章 組織の新しい見方 ー 新制度派経済学入門
第2章 なぜ組織は不条理に陥るか ー 不条理な組織行動を説明する理論
第3章 大東亜戦争における日本軍の興亡
第4章 不条理なガタルカナル戦
第5章 不条理なインパール作戦 ー なぜ組織は最悪の作戦を阻止できなかったのか
第6章 不条理を回避したジャワ軍政
第7 章 不条理を回避した硫黄島戦と沖縄戦 ー なぜ組織は大量の無駄死にを回避できたのか
第8章 組織の本質 ー 軍事組織と企業組織
第9章 組織の不条理と条理 ー 進化か淘汰か
第10章 組織の不条理を超えて ー 不条理と戦う企業戦士たち
といった章立てのもと、論が進められていきます。
一見、非合理、但し、実は合理的
(第6章までの)読んだところでは、
” どんな企業でも、現場の社員の方が、当然、上層部よりも実際の流行やトレンドをよく理解している。
社員は、いまどのような商品が売れているのかについて直感的にわかっている。
それゆえ、会社をより効率的に経営し、より会社を発展させて行くためには、企業は現場の声をどんどん取り入れ、上層部もどんどん方針を変化させながら進む必要がある。
しかし、ワンマン体制では、社員は決して本音をいわないだろう。
というのも、このような体制では、社員が積極的に意見を述べ、その意見を上層部に伝えるには様々な交渉取引プロセスをたどる必要があり、
このプロセスをたどるためにはあまりにも高い「取引コスト」を負担する必要があるからである。
それゆえ、この取引コストの負担を考慮すると、たとえ会社が非効率的で不正な状態にあったとしても、社員はだれも積極的に発言しようとはしないだろう。
これが社員にとっては合理的な行動となる。むしろ、議論をしないで会議を早く終わらせる方が、社員にとってははるかに合理的なのである。
したがって、危機状態にある会社は変わることなく、ワンマン社長による非効率的な経営が合理的に維持されて行くことになる。
こうして、ワンマン社長の企業は未来に向かって進化することなく、退化・淘汰・倒産への道を歩むことになる。
このように、組織の不条理はメンバーの非合理性によって発生するのではなく、むしろメンバーの合理性によって生み出される現象なのである。
合理性を効率性は、必ずしも一致しないのである。”(p56-57)
という一文に、経験則から多分にリアリティを感じたり(笑)
読解には史実の理解に、経済学の知識を求められる箇所もあり、納得しながら読み進めるには
敷居の高さも感じますが、『失敗の本質』を読んだものとしては同書を出発点とした興味深い考察が続き、
セットで読むと、より理解が深まるように、もっかのところ感じています。
読了時に改めて感想を書き連ねたいと思います。