先月(2018年3月)から近いインターバルで西村賢太さんの著書を2冊読了してみて
関連情報を検索しているうち、
amazon レビューに流れつき「代表作って、どんなだろう?」と興味が湧き、手に取った芥川賞受賞作品『苦役列車』を読了。
題名からだけでは、まず間違いなく手元に引き寄せることはなかったでしょうが・・
西村賢太さんの描く世界観が徐々に掴めてきて、だんだんと意識できる形で惹かれていっている状態、であるのかなと ^^;
” 曩時北町貫多の一日は、目が覚めるとまず廊下の突き当たりにある、年百年中糞臭い共同後架へと立ってゆくことから始まるのだった。”(p9)
に始まる一文から、即座に「(そぅ、)この世界観だよなぁ」とスイッチを切り替えられたのは、唯一無二の書きっぷりを実感。
リアリティあるダークサイドの描写
話しの筋は本文に委ねることにしますが、
” 先にも言ったように、父親が性犯罪者として逮捕され、それが新聞に顔写真入りで報道されると、貫多とその三つ年上になる姉の舞は、
即日学校へゆくことを母から止められ、昼でも雨戸を立てた屋内から一歩も外に出るのを許されず、その日以降、彼はそれまでの友達とは一切の接触を持てぬようになってしまった。”(p35)
という過去を背負い、
” 自作の拙さが半分の因とは云え、未だ同人誌上がりの組み置き要員として随筆一本依頼もなく、背番号は三ケタの練習生のまま、それとてそろそろ解雇、剥奪されようかと云う者なのである。
しかし彼は、そんな状況にあるからこそ小説を書いているのである。自身をあらゆる点で負け犬だと自覚すればこそ、尚と私小説を書かずにはいられないのである。”(p155)
と自身を捉える北町貫多=西村賢太さん(であろう)の中学卒業直後、社会に出てはみたものの上手く折り合えず、外側での衝突に内側では葛藤に・・ それらがリアリティ十分に伝わってきます。
石原慎太郎さんが評価した西村賢太作品の魅力
本書は「苦役列車」のほか、「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も収録。
そして、解説を小説家の肩書きで石原慎太郎さんが「魅力的な大男」と題して執筆。
そこで、小説家 西村賢太さんを
” 人生の公理といおうか虚構といおうか、人々が実は密かに心得、怯え、予期もしている人生の底辺を開けっぴろげに開いて晒けだし、
そこで呻吟しながらも実はしたたかに生きている人間を自分になぞられて描いている。それこそが彼の作品のえもいえぬ力であり魅力なのだ。”(p168-169)
と評価。
芥川賞選考委員引退時の
” 期待はあまり報いられなかったな。もう退屈。飽きた “
というコメントなど、
なかなか現代の小説家に対しての評価が厳しい石原慎太郎さんにしては相当な褒めようであるに感じましたが、
計3冊の読書を通じて、多くの人が共感出来るであろう心の奥底に眠るダークサイド(な感情)が、実体験に基づいて巧みに表現されているのが、西村文学の本領であると実感。
中毒性のある世界観につき、やがて戻ってくるとの予感。さて次作まで、どの程度の間隔になるでしょうかな・・