コラムニスト泉麻人さんが、
” 生誕100年にちなんだラジオ番組(文化放送・2014年)の進行役を任されたことだった。
「日曜娯楽版」(冗談音楽)やCMソングの音楽、関係者の談話(まだ永六輔さんもお元気だった)を流しながらトリローの仕事とその時代を解説していく特別番組で、後日改めて放送を聴きながら「これは活字でも書きとめておきたいものだ・・・」と痛感した。”(p305)
という動機によって書き上げられた『冗談音楽の怪人・三木鶏郎 ラジオとCMソングの戦後史』を読了。
月初(2019年8年)参加した本書刊行記念イベント時
に、入手していた著書。
あの人にこの人と・・昭和初期からの芸能史
その時に「そういう人が居たんだなぁ」と、その風刺ぶりが印象的でしたが、その時の情報だけで300ページ超を読破するにはパワー要することに。
内容は、帯にある
「お化け番組『日曜娯楽版』で内閣を激怒させ、日本で初めてCMソングを作った伝説の傑物、初の評伝」
の通り、三木鶏郎さんが辿った軌跡に、
” そして、先の「娯楽版」で「サザエさん」が演じられた50年の春は、永六輔の投稿がトリローの目にとまった頃でもあった。”(p142)
或いは
” と、ここまでおわかりの読者も多いかと思うが、この怪しいマネージャーこそ野坂昭如なのだった。”(p293)
という三木鶏郎さんを取り巻く人脈に、昭和芸能史的な内容も盛りだくさん。
三木鶏郎さんの活躍を知らない世代としては、読み物というよりは、自分が知らない頃に「こういうことがあった」という内容に触れられる資料的な読み方をしていました。
権力に恐れることなく
これはトークイベントでも感じたことですが、帯にもある「内閣を激怒」させたという事実に、
今と違って「表現の幅広さが許容されていたんだなぁ」ということ。それは
” この関西での公開録音の直前に吉田内閣が総辞職、これがトリローに番組終了を決意させる引き金になった、とされる。
・・中略・・
ところで、吉田茂自身がトリローのことにふれた文章やコメントは見つからなかったが、実子の作家・吉田健一がトリローのことに言及した随筆が「文藝春秋」の55年1月号に載っていた。
トリローの冗談音楽などというのは吉田首相一人で持っていたのではないだろうか。
その吉田首相なるものがいなくなって、あの愚劣な吉田攻撃が聞かれなくなったのも、
とは言え、文藝春秋社がこのプログラムを後援している間は何か別な種を見付けて、同じ愚劣な放送を続けられるのだろうから、この方はまだ慶賀する段階に達していない。”(p221/223)
の件(くだり)から、当時の熱の断片をうかがえます ^^ 個人的にヒットしたのは
” 5月13日からアニメ「トムとジェリー」が始まっている。オリジナル音楽を担当したスコット・ブラッドリーの伴奏曲のクオリティも素晴らしいが、
日本版のテーマ曲の作詞・作曲は三木鶏郎。「トムとジェリー 仲良くケンカしな〜」”(p287〜288)
の部分。番組を視聴していたことから「おぉアレかぁ〜」と。
才能を引き寄せ、見出した功績
本では(三木鶏郎さんものに限らず)際どい(今だと確実にアウト)台詞のやり取りも掲載されています。
本では複数、三木鶏郎さんの著書が参考文献として記載されているものの入手はプレミアが付いていたりなど、手軽に入手出来ないようで、
(読者は限定されるでしょうが)自身の功績とともに、永六輔さんに、三木のり平さん等々を引き寄せた日本芸能史で後世に語り継がれるべき人物の生涯に迫った貴重な一冊といえるでしょう。