大概、筒井康隆先生の新刊が出る際はサイン本が出ている印象で待ち構えるも、
本作については「(2月上旬の発売後)出ないなぁ・・」と、3月も中旬となり諦めモードに切り替わりかけていたところ
Twitterで販売情報を見つけ
通信販売で思いを叶えていた経緯。
コロナ禍の最中、混沌、狂乱の世界へ
本書は「漸然山脈」「コロキタイマイ」など一四の短篇を収録。
全体を通じコロナ禍の混沌を描いた「ジャックポット」好例にカオスとの印象を引っ張り出されましたが、
最初二話は全然設定が頭に入って来ず、難解との滑り出しに冷や汗気味も、
次第に作品によって設定に入り込め、中でも
” この同志社大学、神学部という学部があって、日本で唯一イスラム教をきちんと教えているらしいんですが、いやあ大学の神学部としては佐藤優なんて人を出してる優秀なところですよ。
大学でもカズレーザーとか筒井康隆とかも出してるしね。筒井康隆はまあ優秀かどうかわからんが、下品さにおいては優秀とは言えるでしょう。
あいにく日本じゃある程度下品でないと笑いは取れないし炎上もしない。”(p86)
しばしご本人も登場し、
” 星新一とふたりで飲んでいる時に星さんから「筒井君は死をどう思うか」と訊ねられたことがあります。”(p87)
と、死についてハイデカーを絡め
話しが展開されていく「ダークナイト・ミッドナイト」に、作品を知った時点から(読むことを)渇望していた
” 川の手前に誰かが立っている。それが誰だかおれはすでに知っている。息子だ。昨年二月に食道癌で死んだ、五十一歳の息子に違いないのである。”(p275)
という亡くなったご子息との夢の中での交流を描いた「川のほとり」が出色。「川のほとり」は本書で異色の作風ながら、最終話であったことからしんみりさに包まれる読後感を。
多種多彩、老いや死も筒井先生流に
筒井康隆先生ご自身の二十歳の頃が描かれた「一九五五年 二十歳」に
” 昭和三十年。おれは二十歳。厚生省の発表によれば日本人の平均寿命は男性六十四歳、女性は六十八歳であった。
あれから六十五年、なんとおれは八十五歳になった。”(p224)
とある通り、老いや死について日常を絡め描かれた部分が多かったように振り返られますが、本書で収録されている作品は「新潮」「文學界」等で(2017年9月〜)発表済みの作品で構成。
「偽文士日碌」を拝見している限りコンスタントに新作を発表されているご様子から、また近い時期に「(新作で)新たな混沌、衝撃に出会えたらなぁ」と、その時を楽しみにしたく思います。