小泉今日子さんが
” 不思議な原宿の町を観察しようと雑誌の連載を始めた。「原宿百景」と題した連載は、原宿に所縁のある人との対談と、私のエッセイで構成されていた。私は原宿を歩きながら、過去や、未来や、自分の心の中を旅した。”(p9)
という著書『黄色いマンション 黒い猫』を読了。
先月(2022年4月)開催されたオンラインイベント↓の
対象書籍として入手していた一冊。
個人的なこと、社会を揺るがせたあのこと etc
上掲「はじめに」の一文からてっきり原宿界隈を深堀されたエッセイ集かと思いきや
” 十八歳から二十一歳までの四年間、私は原宿にいた。”(p73)
と一部場所への言及はありながら
” 原宿のレンガ色のマンションで一人暮らしをしていた十代の頃のお話。
友達から電話がかかってきた。珍しく仕事がお休みでのんびりダラダラ過ごそうと思っていた昼下がり。
「キョーコちゃん、なにしてる?」
「仕事休みだからダラダラしてたよ」
「私も休みなんだぁ」
「そうなんだぁ」
「今から遊びに行ってもいい?」
「あぁ、いいよ、別に」”(p108)
と何気ない会話に端を発しての
” あれから何十年も生きてきて、そのボーイフレンドのことを思い出すことはないが、あの彼女の涙と笑顔は時々脳裏に浮かぶ。
今どこで何をしているのか消息は知らないが、きっと女としてちゃんと幸せを手に入れているんだろうな。
そうであってほしいと心から願っている。あれは私にとって人生の分かれ道というか、女としての生き方みたいなものを考えさせられた初めての瞬間だったのだ。”(p113)
と心をグサっとさせられた一件の振り返りに、
” 歌を唄う時の彼女はいつもその極上の笑顔でみんなに夢を与えていた。彼女に魅了されたファンの人はたくさんいた。
彼女はスターの道を確実に歩き始めていた。それなのに、ある日突然、彼女は空を飛んでしまった。残念なことに彼女は空の飛び方を知らなかった。”(p49-50)
と社会を騒然とさせた件に絡んだ当時のことなど、小泉今日子さんの内面に深く言及された記述主体。
脆さを乗り越えてきた力強さ
「キョンキョンも頑張ってきたんだなぁ」と、私個人での接点が中学の文化祭にまで遡るアーティストですが、
その描写の生々しさからアイドルから想起されるイメージとのギャップに、弱さを吐露しつつもそれらを乗り越えていった一人の女性の生きざまを意識させられ、読前の期待を軽く超えていったエッセイ集でありました。