オーストラリアを日豪関係に40年以上に携わる田中豊裕さんに学ぶ一冊「国際競争力、自由貿易圏と国内市場」:『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』おさらい ⑦

『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』のおさらいの7回目。

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今回は前回につづき「ハッピー & ラッキー・カントリー」と題された第五章からで、国際競争力、自由貿易圏、国内市場についてです。

国際競争力(ケーススタディ:自動車産業)

” 国内(オーストラリア)市場は小さいので、海外市場を確保することが製造業にとって大変重要である。そのためには国際競争力をつけなければならない。

たとえば、それまで高い保護(輸入割り当てと輸入関税57.5%)で知られた自動車産業について政府は、産業の国際競争力をつけるため1980年代に自動車政策なるものを打ち出し、成果を上げた。

国内の需要を満たすため、当時自動車メーカーは多くの車種を造っていた。しかし国内市場は小さく、年間の新車登録は約100万台(日本は約600万台)だった。

この市場にアメリカをはじめ、ヨーロッパ、日本のメーカーがしのぎを削っていた。

これでは製造単価が高くつき、とても国際市場では競争できない。

また輸入車に関しては高関税がかけられ国内産業の保護育成を図っていたが、いつまでも保護政策を維持できない。

そこで、5社あるメーカーの3社への統合、生産モデルの削減、車種別最低生産台数の設定などで、各メーカーの生産車種を基本的に1モデルに限定し、生産性を高め競争力の向上に努めたのである。

57.5%という高い関税率を段階的に引き下げる( 2010年からは5%)見返りに、政府は自動車産業の投資、技術革新などに対して補助金、助成金などでバックアップしてきた。

これはオーストラリアで造られる自動車一台当たり2,000ドルに値するものである。

この自動車政策の結果、競争力がつき、自動車の輸出ができるようになった。”(位置No.1639、No.1648)

” 伝統的なヨーロッパとの関係が希薄になるにしたがって、環太平洋との関係強化に一層励み、

すでに隣のニュージーランドをはじめ、タイ、シンガポール、アメリカとの間に自由貿易協定を締結し、環太平洋経済圏の一員としての立場を確立しつつある。 ・・中略・・

2010年早々にアセアン諸国との自由貿易協定が発効した。この協定はオーストラリアの通商の約15%、輸出の40%以上を占める東南アジアの12ヵ国が対象で、人口6億人、国民総生産300兆円の市場が開放される。

オーストラリアの最大の貿易相手国は日本、それに続くのは中国、韓国、インド、アメリカである。

日本とオーストラリアは、2005(平成17)年の首脳会談で、両国の自由貿易協定締結のための実現可能調査を開始する合意がなされた。

両国にとって自由貿易協定は利益になるという結論が出て、2008(平成20)年からは自由貿易協定締結に向けて、両国の実務者レベルで作業が進められ、すでに協定締結のための交渉が始まっている。

環太平洋圏が、そのまま自由貿易圏になる日もそんなに遠い将来ではなかろう。EU(ヨーロッパ連合)のような地域経済共同体なるものができる。

そうなれば、この地域に面積、人口、国民総生産、貿易など世界最大、最強の経済圏が誕生する。”(No.位置1737、1746)

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国内市場

” オーストラリアは独立国家であるが、その生い立ちはイギリスの植民地、自治領として発展してきたので、伝統的にはイギリス資本がこの国の経済を支配してきた。

その後アメリカ資本がその支配に加わり、さらに日本、アジア、石油産油国など入り乱れ、オーストラリアの民族資本は、限られた分野での活動になっている。・・中略・・

オーストラリアの民族資本が支配している産業分野は、鉄鋼、セメント、ガラス、紙などごく一部に限られているのが現状である。

またオーストラリアの産業は買収、合併などを繰り返して統合が進み、いまだに中小、零細企業が多く存在する食品、衣料、皮革、木材加工などを除いて、3社以上の企業が参入している分野はあまり存在せず、3社以下の寡占状態が顕著である。

オーストラリアの経済は、外国資本により強い影響を受けざるをえない。

伝統的に経済発展のためには外資導入が欠かせないという事業があり、そのために政府は、積極的な外資導入政策をとり続けている。

このことは結果として、鉱産物、食料資源の輸出で獲得した外資の20%近くを金利の支払い、元金の償還、パテントなどの知的財産権に対する支払い、運賃、保険などの支払いに充てざるをえないということである。

その結果、貿易収支から金融収支を差し引く国際収支の恒常的な赤字体質を露呈することになる。

さらには、国際経済の動向により原料貿易が縮小したり、国際商品価格が下落したりすると黒字の貿易収支さえも赤字になり、金融収支の大幅な赤字と重なって、膨大な経営収支の赤字が発生することなる。

1970年以降、連邦政府も州政府も財政赤字を克服し、競争力を強めるために民営化を強力に推し進め、公営企業であった郵便、空港、港湾、鉄道、通信、ガス、電気、水道、病院、学校、刑務所などその多くが民営化され、外資の進出が顕著である。

・・中略・・ 完全な資産の売却ということではなく民間に経営を委託し、委託期間が過ぎれば資産の返還も可能な方法をとっているケースもある。

またアジア、アメリカ、ニュージランドなどとの自由貿易協定によりオーストラリア資本、企業の進出も増大しているので金融収支にも改善が見られる。”(位置No.1754、1763、1771)

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本書の刊行が2011年2月、「経済協力」の項目内に関するアップデートは、

▪️戦略的パートナーである豪州との経済連携の強化・二国間関係の緊密化(これまでの二国間EPAパートナーで最大の貿易相手国)
▪️豪州市場における日本企業の競争力を確保しつつ,エネルギー・鉱物資源,食料の安定供給を強化
▪️アジア太平洋地域のルール作りを促進(貿易,投資,知的財産,競争,政府調達等)

を柱とする「日本・オーストラリア経済連携協定」が2015年1月に発効。

更にアメリカ、アトランタで9月末から10月初旬に開催されたTPP閣僚会合では TPP(環太平洋パートナーシップ)大筋合意となり、日豪関係を取り巻く環境は刻一刻と進展しています。

次回(後日)は、税金ついて取り上げます。

 


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