オーストラリアを日豪関係に40年以上携わる田中豊裕さんに学ぶ一冊「現代の社会問題」:『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』おさらい ⑰

『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』のおさらい編の17回目 〜

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前回 << 2015年12月3日投稿:画像は記事にリンク >> オーストラリアを日豪関係に40年以上携わる田中豊裕さんに学ぶ一冊「教育システム & 進化した留学事情」:『豪州読本:オーストラリアをまるごと読む』おさらい ⑯

今回で、オーストラリアでの暮らしぶり、ライフスタイルについて取り上げた第七章の最終回。章の最終項目「現代社会事情」からの抜粋です。

経済成長の裏側で

” 1990年代からオーストラリア経済は良好で順調な成長を遂げてきた。この成長は好調な輸出や旺盛な国内消費などに支えられてきた。

新規雇用創出が拡大、国民の所得も大幅に伸び、失業率も低下した。しかしながらこの好調な経済の効果が、社会全体に行き渡っていないのが問題である。

その問題とは、伝統的な経常収支の赤字、増える外国に対する債務、産業の古い体質、低い貯蓄のレベル、研究開発に対する消極性、急速に進む高齢化の経済に対する圧迫、教育の不適正、環境の悪化などが挙げられる。

確かに全体レベルで考察すると経済指標は高い生活水準を示しているが、その中で格差が急速に生じている。

雇用の拡大はしたものの不定期労働者、パートタイマーを急増させている。これに伴い所得の格差が広がっている。

豊かな人はより豊かに、そうでない人はより厳しい生活を強いられている。富の不平等な分配は、社会問題として浮上している。

しかし社会保障や年金は日本と比較するとはるかに充実している。少なくとも将来に対する大きな不安は、あまり感じられない。

やはり持てる国と社会保障先進国の強みであろう。ただ、伝統的な平等、公正、機会平等を国是とするオーストラリアでは日の当らないところにいる人たち、

特に先住民族、移民、若年層などへの高度な配慮が強く望まれている。このような人たちは、医療、福祉、教育、雇用、住宅分野などで不利な立場に立っている。”(No.3314、3322/数値は電子書籍のページ数、以下同様)

”  生活苦、人間関係などが原因で自殺をする人が多い。若年層、高齢者に多く、働き盛りの25〜44歳に続く、年間3,000人近い人が自分で命を絶っている。

男性と女性の割合は、4対1である。また自殺を図り病院に担ぎ込まれる人は、この30倍にも上る。自殺を図る割合は、女性の方が多いのが特徴である。

また都市部より地方、内陸部での自殺率が高く、先住民族の自殺者は一般のオーストラリア人の2〜3倍になる。

自殺者の数は、殺人の約10倍、交通事故死の約1.8倍になっている。日本では年間約3万人が自殺をしているので人口比では日本の方が約1.6倍多くなっている。

オーストラリアにおけるホームレスは、10万人以上といわれている。最近は増加の傾向にある。

もともと先住民族が多かったが、最近では若者、女性、子どものある家族なども増え、25歳以下の若者が全体の半数を占めている。

理由は家庭内暴力や失業などから生じる経済的困難が主な原因である。”(No.3418、3427)

” オーストラリアは経済が好調なので一般の失業率は低下しているが、青少年の失業率は、相変わらず高い。

自分の希望する仕事に就けない、フリーターや、長期アルバイト、契約社員が増えている。

青少年の不満が社会問題を起こしている。青少年問題はどこの国も大なり小なり存在するが、

オーストラリアの場合、青少年の犯罪は、不法住居侵入、車の盗みなどの窃盗、強姦、性的虐待、薬物使用が特に多い。

日本と比べても人口比でそれらの発生率は格段に高い。薬物の使用は、大きな社会問題になっている。

薬物の中で最も一般的で好まれているのが大麻で、14〜24歳の若者(男女)の半数が過去に大麻を利用したという驚くべき調査結果が出ている。

また、14〜19歳では約40%が常に使用しているといわれている。”(No.3446、3456)

オーストラリアにも忍び寄る高齢化社会

” 先進国では共通である高齢化社会にオーストラリアも突入している。現在65歳以上の人口が14%であるが、2050年には23%、また人口も現在の2,200万人から3,600万人になると予測されている。

これにしたがって、医療インフラや、サービスのための投資額も膨大なものになり、医療社会保障の予算が現在の歳出の15%から2050年には26%になるといわれている。

医療、社会保障費の急激な増大が国の経済を圧迫する。国の政策、舵取りが重要になっている。”(No.3331)

憂慮される環境問題

” 注視すべきは、気候など環境の変化であろう。特に水にまつわる問題が将来の社会生活に暗い影を落としている。

オーストラリアは、世界で最も乾燥した大陸である。

国内で消費する水の7割以上は農業用である。ここで農業を営むためには、いかに水を確保するかが最大の懸案である。

また、水質が悪化している。これは土地の塩害である。その結果水に含まれる塩分が問題になっている。

さらに土壌の酸性化が進行し、水質を悪くしている。特に国土の約14%を占めるマレー・ダーリング盆地の環境変化は、大きな政治、社会経済、環境問題になっている。

この地域での農産物の生産額は、年間1兆5,000億円で、これはオーストラリア全体の約40%に当たる。

農業に欠かせない水の供給はもとより、これらの河川に水道、産業用水などの取水を依存しているこの地域、川下に住んでいる住民、産業にとっては生命線なのである。

この河川の異変は、国全体に大きな影響を及ぼすようになる。

オーストラリア全域で水不足が深刻化している。たとえばビクトリア州において1996年にほぼ100%であった貯水池の貯水量が、2度の大干ばつなどで2009年には26.5%にまで低下して、深刻な水不足の状況が続いている。

また、今後10年以内に気候変化、堅調な人口増加、日照りなどにより大量の飲料水が不足に陥ると予測されている。”(No.3331-3368)

この点は、本書の記載に州政府が多額の予算を投じるなどして対策が講じられているとのことが記されています。

”  オーストラリアはエネルギーのほとんどを無尽蔵にある石炭を燃やして作り出している。

水力発電は少なく、原子力発電は皆無で、世界でもCO2の排出量が人口比で見ると大変多い。大気の汚染、世界の温暖化に悪影響を及ぼしている。

オーストラリアでは、地球温暖化による影響がいろいろな分野で懸念されている。”(No.3378、3386)

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女性の社会進出と影

” 他の先進国と同様、女性の職場進出による影響が社会生活全体に及んでいる。オーストラリアでも少子化が進行している。

女性の自立が高まれば、離婚や家族崩壊が起きやすくなる。一昔前、オーストラリアの家庭は子ども2人が一般的であった。

しかし、最近では結婚年齢も高くなり、子どものいない夫婦が増えている。

結婚年齢は男性も、女性も30年前は20代前半であったのが、最近では男性の場合30歳を超えて女性の場合も30歳近くになっている。

また、初婚の場合、その約半数が離婚し、そのまた約半数は結婚後10年以内に離婚をする。

このような状況なので、結婚するまでに約半数のカップルが同棲生活を経験している。

生まれてくる子供が婚外子であるケースが全体の3分の1になっている。

それまで厳しかった離婚法が1976年に改正され、関係を修復できない夫婦が、12ヵ月の別居生活をすれば離婚ができるようになったのも、離婚率の上昇に寄与している。

さらに、最近の傾向として離婚の25%以上が熟年離婚となっている。また離婚の増加に従って、片親家庭の割合が全家族数の20%になろうとしている。”(No.3436-3446)

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国家の前に個人なりて

率に高い低いの差はあれども、日本と共通する問題に薬物、環境問題などはオーストラリアの方が深刻といった感じを受けました。

地上に楽園はなく、そこで生活する個人が確固たる軸を持つことにより、どこにでも幸せに暮らしている人はいるし、そうでない人もいるということなのだと思います。

次回からは、「第八章 暮らしのセーフティーネット」に移行します。

 


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