市場の特殊性(2つのパラドックス)①
” オーストラリアは2つのパラドックスに直面している。その第1は、人口希少国でありながら、失業を抱えているというパラドックスである。
これは次のように説明される。通常、一国が工業部門を持続させるには最低5,000万人の人口が必要と言われる。
オーストラリアはわずか2,000万人弱の人口(註:2015年2月現在の人口約2,400万人)しかもたない。
工業生産には「規模の経済性」が重視される。この程度の人口規模では、国内生産物に対する十分な有効需要が存在せず、国内生産を拡大すればすぐ過剰となる。
さらに地理的に孤立しているため、近隣に工業製品の輸入国を持たない。
逆にオーストラリアの近隣には、ASEAN諸国や東アジアなどの急速に工業化を進めている地域が立地していることから、
国内市場が 小さいことが工業部門の発展を阻害しているといえる。
しかし他方で、オーストラリアは失業問題を抱えている。
周知の通り、工業部門は第1次産業部門などに比べて労働吸収力あるいは雇用創出力が大きいが、
現在のオーストラリアの産業構造はサービス業を中心とする第3次産業が国内総生産の70%を占め、ついで第1次産業が大きな比重を占めている。
労働吸収力の大きな工業部門が人口不足のために育たないが故に労働雇用が少なく、その過小な人口をも雇用しきれずに失業を抱えているのである。”(出典『オーストラリア入門 第2版』p280-281)
出典の出版時期から情報の古い箇所が含まれていますが、オーストラリア市場が抱える特殊性は変わっていないでしょう。また一部、馴染みのない専門用語が含まれますが、大意は伝わるものと思います。
日本市場の成熟化が進むにつれ、成長の場をアジア諸国に見出す日本企業は多いですが、その中でのオーストラリアの注目度が上がってこない要因が示されているように思い、今回、取り上げました。
第2のパラドックスは、次回に続けます。