市場の特殊性(2つのパラドックス)②
” 第2のパラドックスは、高水準の失業に代表される経済不況にありながら、インフレに悩まされてきたという事実である。
周知の通り、インフレとは好況期の経済加熱により、需要の増加に生徒が追いつかず物価が上昇することである。
オーストラリアの状況はこれとは異なり、不況のなかで消費需要が低迷しているにも拘らず、賃金上昇に支えられて物価が騰貴してきたのであり、今日多くの先進国が直面している状況である。
こうした状況のもとで、オーストラリアの経済戦略として、短期的戦略と長期的戦略とを分けて考える必要がある。
つまり、短期的な戦略としては、いわゆる比較生産費説に従って、資源賦存状況から判断して第1次産品の輸出を振興する戦略である。
この場合の問題点としては、対外的には、主要輸入国が種々の輸入制限的措置を課していること、
さらにGATTにおいて輸出補助金の削減が合意されたとは言え、EUや米国などの競合的輸出国が依然として形を変えた輸出補助金を維持しているため、第1次産品の交易条件(相対価格)が低迷していることである。
WTO交渉の過程で、この点は徐々に改善されていくことが期待されるが、完全に実現するまでには時間を要するであろう。
また国内的には、一次産業中心では失業を吸収しがたいという雇用対策の面での問題がある。
長期的戦略としては、輸入代替的工業代替化を図っていくことである。
しかし、現実的にはこうした比較優位部門としての第1次産品輸出促進戦略か輸入代替的工業化かという両極端の二者択一の問題ではなく(いわゆる産業間貿易または垂直分業の推進ではなく)、
各産業部門をある程度は維持しつつ、経済構造に伸縮性を持たせた上で、各々の産業部門内で比較的競争力のある分野にシフトしていくという戦略、いわゆる産業内貿易(または水平分業)を推進して行くことが課題となろう。
オーストラリアは日本以上に貿易依存度の高い国であり、国際市場とのかかわりなしには経済政策を論じることができない。
その点で、上記の経済戦略は、WTOの新ラウンド合意が難航し、FTAが乱立する中で、オーストラリアの持続的発展のための国際化対応の戦略に他ならない。 “(出典『オーストラリア入門 第2版』p281-282)
引用文に読み込める専門性を私が有していないため、転記にとどめたいと思いますが、
立地、人口規模などによるオーストラリアならではの特殊性があり、今回の内容からは貿易依存度の高さは捉えておくべき事柄となるでしょう。
なお、出典書籍の刊行が(第2版)2007年である点を最後に付記しておきます。