日本ハムファイターズが北海道へフランチャイズ移転後に黄金期を築いた森本稀哲さんの『気にしない。』を読了。
本を読んでまず意外であったのは、ご本人が
” 選手としての成績は、日本プロ野球名球会に入るための条件「2000安打」にほど遠い904安打、「記録よりも記憶に残る選手」と言われれば悪い気はしませんが、今もみなさんから忘れられずにいるのが不思議でありません。”(p3)
と仰られており、自分もしっかり記憶に残されているアスリートですが、
一軍のスタメンとしてバリバリ活躍されていたのが、現役16シーズンのうち2006年と2007年シーズンくらいで、
他は入団当初は(ご本人曰く)生意気で首脳陣と対立していたり、考え方を改め頭角を表してからも故障に悩まされたり等で絶頂期が短かったという事実。
ド派手パフォーマンスに込められた思い
森本稀哲選手といえば、私を含め被り物等のパフォーマンスを思い浮かべるプロ野球ファンが多いと思いますが、
それだけ(絶頂期の)その印象が強烈だったと思いますが、もとより目立ちたがり屋だったという訳ではなく、幼少の頃、
” 僕がスキンヘッドになったあの日は、プロ入りの晴れ晴れしい舞台を踏んだ日から、約12年前、今でも忘れることができません。
頭がツルツルになってしまったのは、小学1年生のとき、突然発症した病気によって、髪の毛、まつ毛、まゆ毛が抜け落ちてしまったのです。”(p12)
という原体験があり、苦悩と葛藤の日々を潜り抜け、
” かつての僕と同じように、病気で悩んでいる人や、何らかの神経症の病気で苦しんでいる人がいたら、僕は「ブレーキをかけているのは君自身かもしれないよ」と伝えたいです。
病を受け入れて前に進んでいけば、いつか振り返ったときに「なんであんなことで悩んでいたんだろう」と思えるでしょう。”(p30)
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” 「活躍することによって、スキンヘッドの僕が注目されるようになったら、病気で髪を失った人たちだって、道を歩いていても堂々とできるぞ」”(p32)
という逆境をバネにするまでのプロセスが綴られており、森本稀哲さんの人がらを側に感じる気がして、序盤部分で印象に残ってくる箇所でした。
「全力」を惜しまない
また、本書で強調されていたのは常に全力を出す姿勢で、二軍生活が続き、現役生活が危ぶまれるような状況になっても
” 気取らず、何も知らない状態で、実直に行動していれば、見ていてくれる人はいる。プロ生活終盤にも、その実感できる出来事がありました。
FA宣言して3年契約で入団した横浜ベイスターズでの、ラストイヤーとなった2013年のことです。
成績が振るわなかった僕は、1軍ベンチに入る機会を失い、長い2軍暮らしが続いていました。
1軍でレギュラーを経験してからの2軍生活は、正直なところ心情的にキツいものがあります。
でも、だからといって腐ってしまうのは、僕の本意ではありませんでした。
「いい加減なプレーでチームに迷惑をかけたくない」
そんな僕の様子を、翌年の移籍先となる埼玉西武ライオンズの編成スタッフが見ていてくれました。
別に移籍したいからがんばっていたわけではありません。損得は一切考えず、実直にプレーした結果、幸いなことに移籍に恵まれたんです。”(p145-146)
と、それでも埼玉西武ライオンズで思ったような結果を残せなかったものの、引退試合となった2015年9月27日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦で
「稀哲さんに回せ!」を合言葉に、感動的な最後の舞台
“「8回裏の攻撃は1番バッターからだ。たぶん打順は回ってこないだろう、バッターボックスには立てなかったけど、ライトに立てただけで俺は十分に幸せものだ」
・・中略・・
「稀哲さんに回せ!」
誰が言い出したのか、西武のベンチ内は、7番バッターの僕まで打順を回そうというムードになっていました。
みんなの思いはうれしかったのですが、僕は「いやぁ、さすがにそれは無理でしょ」という気持ちでした。
・・中略・・
「何この展開?みんな本気で俺まで回そうとしてるじゃん」
7番バッターまで打順が回らないだろうと思っていたのは、僕だけだったようです。みんなの「稀哲さんに回せ!」という気持ちに、こっちが圧倒されそうでした。・・・”(p200-201)
が用意され、引用のつづき=感動的な現役生活のエンディングは本書の記述に委ねたく思いますが、
逆境であれ、どんな状況でも全力で打ち込む姿が、ファン、チームメイトに愛されたことが、一冊を通じてよく伝わってきました。
森本稀哲という生きざま
北海道日本ハムファイターズのファンではないし、現役選手中、森本稀哲選手をフォローしていたこともありませんでしたが、
文字どおり、記憶に残るプロ野球選手の光と影、特に水面下での苦悩の描写が印象的で
読書を進めている最中、共感できる部分が多く、後日お目にかかる機会があるので、その時が楽しみです。