今は亡きMontreal Expos:モントリオール・エキスポスなどで活躍された
元メジャーリーガー 大家友和さんの『プロ野球のお金と契約』を読了。
書店に立ち寄った際、表紙に書かれていた
「5億3000万円から月給10万円まで」
の一文に興味を刺激され購入。
大家友和さんの場合、NPB(日本プロ野球)で、僅か3球投げただけで勝利投手になった1勝だけでメジャーリーグベースボール(MLB)に挑戦されたこともあり、
私のようにMLBで頭角を現し、その名を知ることになった方が多数であるように思い、
そのあたりの悲哀といったものは本書にも出ていますが、元は高校に進学する際、
” 私の思い、母のお願いに、最後は兄が折れてくれました。結婚を先延ばしして、授業料を出してくれることになったのです。
その代わり、兄はある条件を出してきました。高校3年間、しっかりと野球に打ち込んだ成果を形として見せてほしいということでした。
その条件が、「卒業するときに、プロ野球チームの入団テストを受験することでした。」”(p30-31)
と野球エリートではない逆境から結果的に入団テストを受けることなく、(当時)横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)からドラフト会議で指名を受け、入団。
目の当たりにしたプロの世界の現実
プロ野球の世界に入ってからは・・
” 2軍というのは、みんな1軍昇格を目指して必死に練習する姿を想像していました。
しかし、前日に酒を飲んだ話をしている先輩がいました。練習を早く引き上げたいと嘆いている選手がいました。
最初は悪い冗談かと思いましたが、それは1日や2日のことではなかったのです。これが、子供たちがあこがれるプロの世界なのか、信じられないという気持ちになりました。”(p42)
” 私にとっては、先輩がサボろうが、どうでもいいことでした。しかし、その先輩は一緒に練習しているチームメイトにも本数を減らすことを強要してきました。
決められた本数をきちんとこなすことが格好悪いという雰囲気すら漂っていました。
2軍で腐る選手がいるといいますが、そうした選手の悪影響が蔓延していたような状態だったのです。
そこに付き合うほど、お人好しではありません。そんな自分が周囲から孤立していくという悪循環に陥っていました。”(p44-45)
という逆風吹く環境の中から結果が出ない日々がつづき、プロ3年目の(1996年の)シーズンオフ
” 「アメリカに行かせてもらえないでしょうか。必要であれば、自腹を切っても構いません、お願いします」”(p46)
と球団幹部に直談判され、この時は横浜ベイスターズを退団しての完全移籍ではなく、ウインターリーグへの参加でしたが、
徐々にアメリカに渡る環境に、考え方の違いから大家友和さんが才能を開花していく素地が整えられていくことになります。
引退を背にした覚悟
メジャーリーガーの華やかさの裏側で、そこに至るプロセスはお金に野球環境が過酷なさまが本書から伝わってきますが、そこは
” 「ここでやるか、やらないのか」。下がってしまえば「引退」の2文字しかない。退路を断ってのメジャー挑戦では、すべてのことを受け入れなければならなかったのです。
そして、そのことは決して悲観しなければならない状況でもありませんでした。
なぜなら、アメリカ人だけではなく、ドミニカやベネズエラ、プエルトリコなど外国から来ている選手はみな同じ環境からはい上がっていくからです。日本人だけが特別でいる必要はないのです。”(p62)
と気持ちの切り替えと覚悟に、また
” よく言われていることですが、アメリカのコーチはメジャーでもマイナーでも、こちらから聞かないとほとんど注意はしてきません。
このときのコーチも同じでした。しかし、彼は日本から来た無名の投手をいつも注意深く見てくれていました。
そして、この悪い癖が出たときだけは、試合中でもベンチから大声で「ステイ・バーック!」と叫んでくれました。
そんな大きな声を出さなくても聞こえるよ、とマウンドで苦笑するほど、よく通る声の主でした。
この言葉が、飛躍の後押しをしてくれたことは間違いありませんでした。”(p64)
という運命的な出会いもあり、
日本人メジャーリーガーとして野茂英雄さんに続く、50勝 & 1000投球回といった記録が打ち立てられることにつながっていくキャリアが描かれています。
大家友和さんが突き抜けたワケ
本のタイトルにある契約にまつわるお話しや生々しく金額も、本書で散見され、
他の野球選手本と違った特色とも感じられますが、自分としては知名度の低い日本人(プロ)野球選手が
如何にメジャーリーガーとしての地位を確立されていくかのライフストーリーに関心がいき、
周囲に惑わされることなく自分を貫き通す力に、環境適応力に、(元広島東洋カープ)山本浩二さんなどが言われる野球脳、スマートさに支えられての成功であったろうと、
大家友和さんが掴み取った栄光と裏側の暗闘が、よく分かる一冊でした。