舛添要一前東京都知事が、
” ヒトラーについて、コンパクトにまとまった、しかもバランスのとれた入門書を書こう “(p258)
と、その過程での苦難を経ながらも、上梓に至った『ヒトラーの正体』を読了。
ヒトラーが待望された時代背景
中間記⬇︎をアップロードしてから
ヒトラーが政権に就き、世界史で広く知られる事がらに、その背景などについて言及されています。
” ヒトラーによって約600万人のユダヤ人が殺害されたのです。20世紀における人類の最大の汚点の一つです。”(p174)
と、この点については程度の差はあれ、ヒトラーについてよく知らずとも十分に周知されているものと思いますが、
そもそもヒトラーが指導者として求められた背景には
” 第一次世界大戦で敗れたドイツは、ヴェルサイユ条約によって、領土は減らされ、軍備も制限された上に、多額の賠償が科せられました。
国民の生活は困窮し、ドイツ人としての誇りも傷つけられたのです。”(p114)
という経過あってのこと。ドイツ国民の不満、鬱憤が蓄積され国民の支持を得る形(=選挙)を経て、ヒトラーが政権に就き
” 政権を獲ったときには失業者が600万人もいたのに、わずか3年で完全雇用に近い状態になったことが、ドイツ国民の喝采を浴びたのです。”(p102)
と、ドイツ国民がヒトラーに熱狂していった経過、史実も理解出来ます。
但し、その後の周囲の離反をも招く暴走は断罪されるべきですが、
” 大衆の心理と行動を研究し尽くしていたのがヒトラーです。
演説の時間、テーマの選定、演説会場の道具立て、ジェスチャーを交えた熱弁など、見事なまでに成功したのです。
ハーゲンクロイツやSSの制服などのデザイン、都市計画、芸術への干渉など、全てがナチスの威信を高めるために動員されます。そのプロパガンダ効果は絶大でした。”(p230)
と天性のものに努力が加わり、カリスマ性を帯びた独裁者が時代の要請に応じて、悲劇に至ってしまった過程が分かりやすく書かれていました。
繰り返すまじ
ヒトラーが台頭していった経緯に功と罪について本編で学習した後、舛添要一さんが警鐘を鳴らしているのは
” 今日、世界中で移民や難民を排斥するポピュリズムの嵐が吹いていますが、ヒトラーと同様な主張が展開されているのに驚きます。
「権利を享受しながら義務を果たさない」という言葉など、よく聞きます。当時は「ユダヤ人」、今日では「移民や難民」が標的になっているのです。”(p197)
或いは
” 今日の世界は、トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱、移民排斥をうたう政党の勢力拡大と、ポピュリズム、大衆迎合主義が蔓延しています。
ある意味で、ヒトラーが政権を獲得し、第二次世界大戦が勃発した1930年代とよく似ています。”(p248-249)
という現実に世界情勢の趨勢。
「歴史は繰り返す」とはしばし耳にする物言いですが、一方で「歴史から学ぶ」ということも言われます。
日本に限定しても、隣国との緊張は高まる一方であるように受け止められますし、
ヒトラーが生きた時代から知恵を出す作業が必要に感じられた今回の読書でした。