国立情報学研究所教授、社会共有知研究センター長 新井紀子さんの
『AIに負けない子どもを育てる』を読了。
2018年2月に出版された『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
(前著)の続編。
読解力を上げるために
前著で示された課題から「では、どうすれば良いか」という道筋が示されていて、
新井紀子さんのグループが開発された基礎的・汎用的読解力を測るリーディングスキルテスト(RST)を
実際に序盤(第3章 リーディングスキルテスト、体験!)で解いて自身の読解力を把握してみたり、
” まず小学校で「見たことを正確に文章にする」ことを指導することが大切だ。”(p289)
” 人間の最も優れているところは、意味を理解できることと、怠ける天才であることです。
また、言葉と論理と数量のタネも生まれながらに備わっています。
外界や身近な大人に高い関心を持つ幼児期から低学年の間に、それらを観察したり真似たりルールを教わったりする機会があれば、
3年生くらいまでの学習内容はそれほど難しくありません。”(p293)
” 重要なのは、小学生時代に「暗記すれば点が取れた」「論理的に考えるより、人の真似をしたほうが楽だった」という成功体験をなるべく積ませないことです。”(p294)
など、実際に教育現場に従事している学校の先生たちが取り組むべきことに視座が記されています。
大人の読解力
全編330ページ弱で、内容も序盤から厳しい現実を示す重い内容で、私個人も
” 基礎的読解力は、中学3年生までは、学年が上がるに従って、能力値も上がる傾向があります。
一方、高校生以上になると上がりません。たぶん、中学までに「自己流の読み」が定着してしまい、何らかの矯正をしないとその「読み方」のまま大人になってしまうのです。”(p202)
同年代の中で本は読んでいる方との自覚があっても、それは読解力と関連づいたものでないことを知らしめられ、
一方、そういった人たちにも
” 大人になっても読解力は上がります。
・・中略・・
ただし、長年、「キーワードピッキング」やスマートフォンの「スワイプ読み」に慣れきってしまっている脳を、一行一行しっかりと読むようにトレーニングするのは想像以上に苦痛でしょう。
・・中略・・
読解力が上がると、生産性が向上します。がむしゃらにこなしている仕事のやり方も変わり、自己肯定感も高まります。
AIに仕事を奪われることを恐れる必要もなくなります(今の仕事を奪われても、高い読解力を持つ人材は引く手あまたなので転職すればよいだけです)。
それほどメリットが大きいのですから、読解力向上に投資する価値は十分あるでしょう。”(p306)
との言及から、改善の見込みが示されています ^^
噛み合わず、認識されない原点
根深いのは、
” どなたも、自分の分野の文章、特に自分が書いた文章だけは読みやすくて、それ以外は「読みにくい」と思うようです。
そして、自分が書いた文章を誤読する人に対しては「読解力がない」と嘲笑し、自分が読めない文章は「読みにくい文章」と非難する。”(p124)
或いは学校でも
” 圧倒的多数の生徒は「自分は教科書は読めている」と思っていますが、実は読めていないのです。
その主観的評価と客観的評価の差に、「読めるとは何か」ということの本質があるのだろうと思います。”(p141)
という実態で、読んで伝えることはコミュニケーションの根幹ですが、
その土台が崩壊していることは本書でも痛感させながら、示された処方箋に、新井紀子さんが鳴らす警鐘と同時に並々ならぬ思いの深さも読後実感させられました。