瀧本哲史さんの『戦略がすべて』を読了。
ご存知のない方のために、瀧本さんの略歴を本書から引用すると・・ マッキンゼー&カンパニーの勤務経験を経て、現在はエンジェル投資家、京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授などというお立場。
多くの方にとっては、著作を通じて馴染みが多かろうと思いますが、私の瀧本さん本の読書歴は『僕は君たちに武器を配りたい』に始まり、
全作手に取っているはずですが、「(前作から)いつ以来だろう?」と振り返ってみれば・・
『君に友だちはいらない』の刊行が2013年11月であったことから、2年とちょっと。
日本人と戦略的思考
本書が刊行された意図を、最終章「VII 「戦略」を持てない日本人のために」から拾うと・・
” 本書は、時事評論の形を借りた、「戦略的思考」を磨くためのケースブックである。
・・中略・・
もし、勤勉に頑張って品質を高めた商品が必ず勝つとしたら、二十世紀から二十一世紀への転換期に起きた日本の没落はきっと起こらなかっただろうし、
さらに言えば、第二次世界大戦において日本が惨敗することもなかっただろう。
また、日本人は「競争」というと、同じ方向に同じように走って、頑張った人が勝つようなイメージを持つかも知れない。いわばマラソンのイメージだ。・・中略・・
しかし、実際の競争はそれほど単純ではない。実際の競争は、全く違うルートを開発したり、今まで存在していたルールを変えてしまったりした者が勝利する。・・中略・・
つまり、戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ。
そういう意味で言うと、「戦略」は弱者のためのツールでもある。同じ戦い方で正面衝突をすれば、もともと強い者が勝つだろう。
だから弱者が勝つためには、戦いのルール自体を変えたり、攻守を逆転したりして、大胆な転換を模索するしかない。”(p244-245)
露呈する戦略の欠如
日本/日本人で「戦略」が欠如していることの証左として・・
“「最強の軍隊はアメリカ人の将軍、ドイツ人の将校、日本人の下士官と兵だ。最弱の軍隊は中国人の将軍、日本人の参謀、ロシア人の将校、イタリア人の兵だ」というジョークがある。
これが揶揄するのは、日本の組織における現場力の強さと意思決定能力の弱さである。
だからこそ、日本人の組織は、意思決定のまずさを現場の頑張りで何とか解決しようとする。
ところが残念なことに、「戦術の失敗は戦略で補うことが可能だが、戦略の失敗は戦術で補うことはできない」というのが戦略論の定石だ。
だから優秀な現場が無能な経営陣のカバーをしようとしても、単に現場が疲弊するだけなのである。
社会的に問題になっている「ブラック企業」も、戦略レベルでビジネスモデルが破綻している企業が、現場の負担で何とか生き残っているが、結局破綻するという顛末を迎えることになる。
牛丼チェーン、居酒屋チェーン、大手電機メーカー、いくつもの事例が読者の頭に浮かぶだろう。”(p247-248)
これには日本企業の在りよう(昇進形態)が
” 日本の一般的な組織においては、「良き平社員が、係長に」、「良き係長が、課長に」、「良き課長が、部長に」の延長で、最高意思決定者が決まる。
多くの場合は本流部門や業績を伸ばした部門を上り詰めた者が選ばれる。
意思決定の力量ではなく、環境や時代に恵まれていたり、社内評価を高めることに成功したりした人というわけだ。
そんな人が突然戦略的思考を求められても無理だろう。実のところ、作戦指揮と戦略決定は、野球とサッカーぐらい違うのだ。
企業という組織においては、各階層での仕事は大きく異なるため、日本のようなキャリアパスの設計は適切ではない。
事実、多くのグローバル企業では、最初からリーダーを選抜し、かなり早い段階から難しい意思決定をさせて経験を積ませている(日本でも先進的な企業ではすでにそうなっている)。
軍隊のような組織も、参謀と士官と下士官と兵隊では仕事の質が大きく異なるため、キャリアパスも違う仕組みになっている。”
と、変化が年々激しくなっている時代に対応出来ない点、また、戦略構築の素養が出世システムと馴染まない欠陥を指摘。
「戦略」を持って生きる、ために
そこで解決法が示され、
” それでは、どのようにすれば「戦略的思考」を身につけられるのか。
意思決定の機会を多く得るために、ビジネススクールなどで行われているのが、ケーススタディを大量にこなすという「擬似トレーニング」だ。
理論を学ぶだけの方が早いのにあえてケースメソッドが用いられるのは、理論を覚えるのとそれを実践するのは別のスキルだからだ。
これは元々ロースクールの学習方法だ。法律の準則をそのまま暗記するのではなく、自分でルールを発見したり適用したりすることを目標にしている。
単に知識を記憶し再現するだけでは法律家としての一般的な能力は身につかないからだ。
スポーツや将棋などの競技、音楽家、職人など様々な「達人」が、どのようにスキルを上げているかについての研究では、
自分に合わせた「独自のトレーニング」を行っていることがわかっている。
自分に必要なスキルを高負荷勝つ効率的に鍛えるトレーニングを独自に開発し、それを日常的に繰り返す。
将棋であれば、闇雲にたくさん対局するよりも、詰め将棋をやった方が終盤での読みの力を高めるには効率が良いというのと同じだ。
友人の夫である元アメリカ海軍特殊部隊の人は、電車の待ち時間になるといつも、集中力と反応適応速度を維持するトレーニングを行うのだという。
達人たちは暇さえあればそうした小さなトレーニングを行っている。
同じ考え方をビジネスマンに応用するのであれば、身の回りに起きている出来事や日々目にするニュースに対して、戦略的に「勝つ」方法を考える習慣を身につければいい。
世界的な経済問題を考えるのもいいが、自分のいる世界で起きたこと、自分の目に映る物事、自分の気になるものに関して考えることのほうが役に立つ。
本書『戦略がすべて』はその手助けをする本である。様々な話題を元に、私なりに戦略的にはどのように考えたら良いかの仮説を展開した。”(p251-252)
という前提のもと、AKB48がヒットした背景の解明や東京オリンピック誘致がなぜ奏功したのかの考察など、
多くの読者にとって身近と思われる二十四の事例をもとに、どのような「戦略」に基づいて社会で受け容れられたのか、勝ち組になることが出来たかについて、論が展開されています。
「戦略」を心得る
瀧本さん本らしく、一度、読んだだけで腹落ちし切れない歯応えがあり、
まだ漠然と「こういうことかな」と、おぼろげな次元ですが、繰り返し読み込んでいくことで、理解度が進化していくものと、
「戦略」のある生き方を実践するべく、本書に習って、日々の思考の在りようをシフトさせていきたいと思います。