移住の理想と現実 ⑨
” 差別の場面をミクロな視点で見ると、外見以外にも「英語」が排除的意味合いで使用されている事例が多い。
次のインタビュー・データは、この点を示している。
サニーバンクという中国系の方が多い地区があるんですけど、サニーバンクに買い物にいくときに、チャイニーズの方は家族内ではチャイニーズ(中国語)でしゃべるんです。
それが気に入らないコーケージアン(白人系)の方もいるわけです。そばにいって、「Speak English」なんてわざわざ言うんです。
私は家族でしゃべっているんだからいいんじゃないって思うんですけど、私がそこで何か言って反感を買うのがいやなので、
心の中で怒ってても言えないんです。不愉快ですよね。(四十歳代女性。商社勤務中の海外旅行先で知り合ったオーストラリア人と結婚し移住)
オーストラリアは多文化主義社会が進展し、日常生活に「外国人」が溢れている社会である。
多民族社会化し、人口の二割以上が家族で英語以外の言語を話す社会においては、「われわれ(オーストラリア人)」と「彼ら(文化的他者)」を分ける基準として、「英語」が重要な役割を果たす。
英語を流暢に話す者は、オーストラリアに適応していることを示し、公共の場で大声で英語以外の言語を話す行為は、時に非難の対象となる。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p190-191)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ⑨ →
移住の理想と現実 ⑧
” 以上に述べた言語バリアやビジネスの習慣の相違が、オーストラリアでの仕事や生活において移住者が直面する現実的な問題である一方で、移住者は人種差別という心理的バリアにも直面する。
程度の差はあるものの、ほぼすべてのインタビュイーの間で日常生活において人種差別あるいはそれに近い経験を持っていた。
フリーランスの美容師を営む三十歳代の女性は、彼女が経験した差別意識について次のように語っている。
クイーンズランドって他の州に比べてひどいねー。アジア人嫌いって人多いでしょう。
ブリスベン、特にシティとスプリングヒルの(大手スーパー名)、ひどいねー。私文句言ったもん、「マネージャー出せ」ってね。
アジア人、日本人に対する態度がぜんぜん違う。美容師でサロンで働いてたときも、「こんにちは」って(顧客のもとに)行くと、(自分を)ちらっと見て「別の人にして」って。
まあアジア人だからそうなったとは言えないけど、やっぱりそうだったと思うよ、あれは。
この事例に見られるように、日本人移住者が経験している人種差別の多くは、「アジア系」への蔑視や差別に基づくものである。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p190)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ⑧ →
移住の理想と現実 ⑦
” 現地で食品関連の貿易業を立ち上げ、成功している男性は、このような日常的レベルからビジネス上まで様々なトラブルやストレスを経験した後、
オーストラリアでのビジネスや生活をこなしていく秘訣を語る中で、次のように述べている。
仕事でね、日本から駐在で来ている人にも言うんですけど、すべてに対して期待はしない。うまくいかなかったときに失望しないように、期待しないようにする。
もう一つは、一〇〇パーセント本当のことを言う必要はないんだけど、ウソは言わないようにしようと。
本当のことを言えば、誤解されることもないだろう、と。でもやはり仕事上、どうしても本当じゃない情報を言う人もいるので。
だから何があってもウソじゃない情報、それは大事にしたいと思ってますね。
彼はオーストラリアでのビジネスや生活の経験から、「期待しないこと」と「ウソを言わないこと」の二点を部下に言い聞かせている。
この二点は、様々な些細なトラブルを経験した彼にとって、オーストラリアでのビジネスを乗り切る術となっている。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p189-190)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ⑦ →
移住の理想と現実 ⑥
” 日常生活における文化的衝突の事例として、五十歳代の女性は次のように自身の経験を話している。
(店で)「これ、三十分前に買ったんですけど、壊れてるじゃない」って言うと、「私が売ったわけじゃないのよ!」って言う。自分で責任を引き受けない。
「でもあなた(大手デパート名)の人でしょ。あなた(大手デパート名)が働いているっていうのは、あなたは(大手デパート名)のrepresentativeだから受けてたたなきゃ」って言ったらびっくりしてました。
それを(オーストラリア人の)主人に言ったらみんなそうだって、警察に行っても責任逃れ、自分で責任を引き受けない。
外資系航空業界に勤め、従業員のトレーニングを行っていた彼女にとって、オーストラリア人の「責任逃れ」の傾向は、日常生活の様々な場面で目についた。
彼女自身の電化製品の返品をめぐるトラブルに見られるように、異文化に育ったがゆえに体験する日常的な些細な衝突は、移住者の立場の個人にとって時にストレスとなる。
これらの経験や感情は、日本人移住者の多くによって経験されるものであり、ビジネスの場面のトラブルにもたびたび繋がる。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p189)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ⑥ →
移住の理想と現実 ⑤
” 日本で看護師として勤務し、現在はパートタイムで事務系の補助的な仕事を行う女性は、次のように述べている。
日本に比べて、(オーストラリアの職場のやり方は)細かいのかなって思ってたんですが、いろいろ資料の整理とかむちゃくちゃだったりして、
これは整理しておけば後から楽なのになあって私は思うんですけど、でもぐちゃぐちゃだったりして。おおざっぱだなあって。
彼女は引き継がれた仕事を行う中で、前任担当者が杜撰な書類整理をしていた点についてこのように話した。
彼女にとって日本での事務処理は患者の個人情報の管理を意味していたため、合理的かつ的確な仕事を要求されていた。
そのため彼女は、前任者の不備を補正することに作業時間を奪われ、最初の数週間はその作業にストレスを感じることとなった。
同様に、日本でフルタイムでのOLと派遣社員を経験し、現在はパートタイムでリサーチ関連の業務を行う三十歳代の女性は、次のように述べている。
ちょっと信じられないと思ったんだけど、給料の支払い、ここって間違い多いんだよね。
一回とか二回とかじゃなくて、もう何回も。だから(従業員は)みんな毎回ちゃんと(給与明細を)もらったらすぐに見るんだよね。
こんなのって日本じゃ考えられない。たぶんオージーにはダブルチェックっていう概念がないんだと思う。
このように「オーストラリア人の気質」や「仕事のおおざっぱさ」といった言葉で表現される文化的相違は、
日本人移住者が働く上で、日常的な些細なトラブルを頻発させ、それはストレスの元となる。
移住者にとって小さなストレスは、地元住民よりも大きなストレスとなり、時に日常生活において文化的衝突を発生させる。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p188-189)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ⑤ →
移住の理想と現実 ④
” オーストラリアで日本人移住者が働く上での障壁は、言語バリアのみならず、日本とのビジネスの慣習の相違も一定の制約となりえる。
厳格な労働観を要求される日本の企業社会を経験した日本人移住者にとっては、オーストラリアの時間を厳守しない風潮や突然のキャンセルが頻発する傾向などに見られる「緩い労働倫理」は、一種のカルチャー・ショックであり、
移住者の適応過程においてオーストラリア社会への不満を感じさせる要素となっている。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p187-188)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ④ →
移住の理想と現実 ③
” 日本で、貿易関連企業に勤務した後、ヨーロッパ系の男性と結婚し、オーストラリアに夫婦で移住した女性は、次のように話している。
こっちに来て二年目に、オーストラリアの政府のヘルス・インシュアランス・コミッションの募集がありました。
運良く受かりまして、今でいう、メディケアですね。メディケアと、メディバンクがあって(中略)母国語でないから、やはり英語が一番苦労しましたね。
いっしょに仕事をしている人は英語を話せて当たり前っていうふうになっているのでそれが大変だったし。
毎日が英語のレッスンでした。仕事の中で親日派の方がいらっしゃって、その人たちに教えていただいて助かりました。”
これらのインタビュー・データは、一定の語学力を有している移住者でもオーストラリアの職場においては、第二言語として英語を使う以上、言語バリアを経験している点を示している。
滞在年月が経つにつれて、これらの言語バリアは克服されるものの、先に示したインタビュー・データは、移住者が経験する現実の一端を示していると言えよう。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p187)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ③ →
移住の理想と現実 ②
” オーストラリアの永住権取得には一定の語学力が必要とされているため、大半の日本人移住者は英語を日常レベルで使用する運用能力を有している。
しかし、フィールドワークをとおして、彼らの多くが特に移住直後の時期に言語バリアに苦悩した経験があることが分かった。
現在、日本市場向けのコールセンター勤務する三十歳代の女性は、英語をめぐる苦労について次のように語っている。
(仕事をしていて大変なことは)やっぱりコミュニケーションですね。お客さんとも会社の同僚とも大切だし、難しいなあと。
難しい点は、(日本語での)苦情の対応ですけど、やっぱり職場内の上司とかとの(英語での)コミュニケーションの方が大変かな。
同様に、旅行・留学関連の会社に勤務する男性は、同僚との英語でのコミュニケーションについて次のように語っている。
僕は英語を(日本で)ちゃんと勉強したことがなかったし、自分の人生の設計のなかに海外に住むなんて最初は考えてもなかったので、まずは英語に慣れるのには苦労しました。
ブリスベンに数年住んでだいぶ慣れてきたんですけれども、オーストラリア人のスタッフとのコミュニケーションは・・・まだまだ、苦労してばかりで・・・。”(『日本社会を「逃れる」オーストラリアへのライフスタイル移住』p186-187)
続きを読む オーストラリア ライフスタイル&ビジネス研究所:移住の理想と現実 ② →
「冒険」に出たものだけが、大きな果実を手にすることができる