” オーストラリアで長期化する森林火災が経済を直撃している。ホテルには外国人観光客のキャンセルが相次ぎ、主要産業の石炭も一部減産に追い込まれた。
エコノミストは2019年度(19年7月~20年6月)の実質国内総生産(GDP)の伸びを0.4ポイント押し下げると試算する。
モリソン政権は観光業や中小企業向けに支援策を打ち出すが、対策の遅れを指摘する声が多く、与党支持率は下落傾向にある。
政策助言会社SGSエコノミクス&プランニングのテリー・ローンズリー共同代表は、森林火災が19年度の実質GDPの伸びを0.4ポイント押し下げると見込む。
火災が個人消費の冷え込みや労働日数減などにつながるとして、実質GDPを最大約80億豪ドル(約6,000億円)圧縮すると試算する。
豪投資大手AMPキャピタルのチーフエコノミスト、シェーン・オリバー氏は、火災が20年1~3月期までにGDPを0.4%減少させると予測する。
このうち0.2%が消費の冷え込み、0.1%が観光、0.1%が農業生産などへの影響と分析する。
国際通貨基金(IMF)は豪州の実質GDPの伸びを19年1.71%、20年2.26%と予測する。
世界最長の113四半期連続で景気後退を経験していない豪州経済にとってダメージだ。
19年11月から深刻になった森林火災では、韓国の国土にほぼ匹敵する10万平方キロ以上が焼け、コアラなど観光資源にもなる多数の野生動物が死亡した。
オリバー氏は「(SNSなどで拡散した)豪州の大部分が燃えているかのような誤った地図の影響もあり、外国人相手の観光業には今後1年程度は影響が残る」とみる。
観光業界団体の豪観光輸出協議会が1月半ばに公表した調査によると、会員企業の7割が外国人客のキャンセルを受けたと回答した。
南半球が夏になる12月から2月は観光業界にとってかき入れ時だが、同協議会は火災の損失を45億豪ドルとはじく。
1月上旬には最大都市シドニーを擁するニューサウスウェールズ州の観光局が「夏にわが州への旅行を予定するみなさんは計画や(ホテルの)予約を変えないでほしい」と訴えた。
「シドニー都心部も含め(州内は)火災の影響を受けない地域が多い」と指摘した。豪航空大手幹部も「主要都市は安全だ。豪州支援の最もよい方法は豪州訪問だ」と主張する。
輸出を支える資源産業にも影響が及ぶ。豪英資源大手BHPは21日、19年10~12月期の発電用石炭(一般炭)の生産が前年同期を9%下回ったと発表した。
火災で発生した大量の煙が炭鉱に入り込み、操業の効率が落ちたことなどが響いた。
畜産業では、豪農務省によると被害の大きいニューサウスウェールズ州など東部の3州で焼死や殺処分された肉牛、羊などの家畜は計7万8千頭にのぼる。
対策の遅れで批判を浴びるモリソン政権は、支援を急ぐ。「記憶にある限り、最大の課題に直面している」(モリソン首相)という観光業に対しては7600万豪ドルを拠出、海外向けのキャンペーンなどに充てる。
森林火災の被害を受けた中小企業向けには、1社につき最大5万豪ドルの助成金や同50万豪ドルのローンも提供する。
ただ夏の終わりまで1カ月以上あり、気象次第でさらなる被害拡大もありうる。”(出典:日本経済新聞)