” 壮大な自然と先住民アボリジニの文化が息づくオーストラリア北部のノーザンテリトリー(北部準州)。
中でも「トップエンド」と呼ばれる海寄りの地域は、動植物の宝庫として知られている。
観光のベストシーズンは乾期の5月から10月。ノーザンテリトリー政府観光局の協力で訪れた。
トップエンドを訪れる観光客の多くが目指すのはカカドゥ国立公園だ。
豊かな自然と先住民文化が評価され、1981年にユネスコ世界遺産(複合遺産)に登録された。州都であるダーウィンの東に位置し、広大な敷地は約2万平方キロにも及ぶ。
公園内に入ると動植物の圧倒的な生命感に驚く。熱帯性気候のおかげで1,600種以上の植物が生い茂り、280種を超える鳥類が生息する。
豪州唯一のコウノトリ科の鳥で、現地ではジャビルーと呼ばれるセイタカコウや、スイレンの葉の上を歩く姿が水面を歩いているように見えるレンカクなどが乱舞する。
野鳥観察が趣味というガイドは「ここは野鳥好きにとっては天国だね」とほほ笑む。
公園中央部を流れるイエローウオーターリバーでは、5メートルもあるクロコダイルが川の中をのびのびと泳ぐ姿や、大きな口を開けて体温調節する姿を遊覧船から間近に見ることができる。
この大自然の恵みを享受して生きてきたのがアボリジニだ。公園北東部のウビルや東部のノーランジーロックの岩山や洞窟には、彼らの祖先が描いた壁画が5,000~7,000点も残されている。
古いもので約2万年前のものもあるという。雷男の伝説を絵にしたものや、狩りの効率的な方法を描いたものなど、アボリジニの暮らしや文化を表現している。
壁画にはさまざまな画法があるが、中でも人間や動物の骨格を透かしたように描く「x線画法」が目を引く。
経年変化により赤系統の顔料が残りやすいため、赤色の絵が最も古い時代に描かれたことを示すという。
今回、アボリジニの伝統食文化を体験する機会があった。公園内に住むアボリジニのベン・タイラーさんの案内で、まずは「ブッシュタッカー」と呼ばれる豪州原産の食材を集めるために森の中を進む。
「クロコダイルに襲われないように川から5メートルは離れて」と注意を受けながら、自生している植物についての説明を受ける。
ロゼラという赤い実を付ける植物は染料やお茶として使うことや、木の皮をはいで皿に使うことなど、植物を生活に生かす多様なアボリジニの知恵に驚く。
食材が集まったところで料理をふるまってもらった。大型肉食魚のバラマンディは直火で焼いた後、土に埋めて蒸すことによって身がふんわりとした食感になる。
味付けは食材の味を最大限生かしたあっさりとしたシンプルなものだ。
トップエンドを訪れたならばリッチフィールド国立公園にも足を延ばしたい。ダーウィンの南約100キロ、車で2時間ほどの場所にあり、多くの滝があることで有名だ。
中でもフローレンスフォールズは自然のプールとして人気が高い。この公園には巨大なアリ塚もあり目を引く。
大きい物では5メートルを超え、「大聖堂」と呼ばれる壮大なものもある。1メートル高くするのに約10年かかるという。
圧倒的な生命力にあふれた大自然。そこで育まれたアボリジニの奥深い文化。日本では体験できない世界がノーザンテリトリーにはあふれている。【藤井達也】”(出典:毎日新聞)