オペラハウス大改修のお目見えは2021年
” オーストラリアを象徴する建築物、シドニーオペラハウスが2021年に生まれ変わる。
軽快で独創的な鉄筋コンクリート(RC)のシェル群がシドニーの真っ青な空とコントラストを成す。
この劇場には今でも毎年820万人を超える観光客が訪れ、世界で最も利用される劇場の1つとして数えられている。2020年に改修工事に着手する予定で、現在設計を進めている。
オープン以来、最大規模の大改修
アラップは設計当初からこれまで約60年にわたって、シドニーオペラハウスに関わるプロジェクト300件以上に携わっている。
地下を貫く搬出入のためのトンネル工事や、レストランの照明デザインなど大小様々なプロジェクトに携わってきているが、今回の改修は最大規模となる。
予算2億200万豪ドル(約160億円)の大半を費やす主な改修工事は、館内に複数ある劇場のなかで最大のコンサート劇場である。
劇場の音響改善、エレベーターの増設、コンサートやサーカスなど多様なイベントに対応できるスピーカーや照明・音響反射板などの天井吊り物の増設、それに伴う鉄骨フレームの補強を実施する予定だ。
オペラハウスが鉄骨造?と思う人もいるだろうが、外部のコンクリートシェルの内側に、劇場を包むように鉄骨のトラスフレームが構築されている。改修は、外観のデザインを変更せず内部のみを行う。
特筆すべき点は、ニューサウスウェールズ州政府とオペラハウスは、保全管理計画のなかでこの建物の原設計者であったウッツォン氏の息子であるヤン・ウッツォン氏にデザイン監修を依頼し、当初のデザインコンセプトを損ねないように改修するようにしたことだ。
日本で建築の改修と聞くと、耐震補強を思い浮かべる人も多いだろう。
実は、シドニーオペラハウスが設計された当時、オーストラリアの建築基準法には地震力が定められておらず、建物の水平方向に与える荷重として風圧力のみが定義されていた。
風圧力に対する検討は、風洞実験の結果と、自社開発したコンピューター解析の結果を比較しながら慎重に実施していた。
基準法に地震力の記載がなくても、当時のエンジニアたちは地震力と同等の水平力(建物総重量の約10%の水平力)を前提に設計していたのである。
オープンしてから16年後の1989年にオーストラリア南部のニューサウスウェールズ州で起きたニューカッスル地震は、同国史上最悪の自然災害となった。
その後1994年に法改正がなされ、基準法にも地震力が定められたのである。
今回の大改修に先立ち、地震力と風圧力の大きさを比較したところ圧倒的に地震力の方が支配的であった。
それにも関わらず、再現期間2500年の地震力で構造計算を行っても、設計当初の構造には地震力に対する補強の必要がないことが確認されたのだ。
最低ラインである建築基準法を技術者として適切に解釈し、それを満足したからと甘んじることなく、自然と真摯に向き合い建物を安全に設計する。
構造性能に寄与しない無駄な贅肉をつけるのではなく、筋力をつける。建築技術者としてあるべき姿だ。
今回行う大改修の設計において、参考にしているのは先人たちが残した数千枚にも及ぶ解析結果や計算書、手書きの図面である。
最近では日本でもBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入が増えてきているが、アラップのシドニー事務所では2004年よりオペラハウスの手書きの既存意匠図や構造図を読み解き、BIMを実行し、これまでの改修や修繕、運営に活かしてきた。
・・中略・・
1946年にオーヴ・アラップが会社を設立して以来、アラップは70年以上にわたりヨーロッパ、アジア、オーストラリア、アメリカ、アフリカ、中東ほか、世界約160カ国以上でプロジェクトに携わっている。
そのなかでもこのシドニーオペラハウスは、最も長い年月をかけてクライアントと密接に建築の保全に関わってきたプロジェクトだと言える。
設計当初から今までの間、構造だけではなく、ファサード、火災安全、セキュリティー、メンテナンス、照明など世界中の多様な分野の専門家がこのプロジェクトに関わってきた。
現地の人しか知り得ないローカルの情報を分野や国境を越えて共有し、客観的な視点で議論ができる。過去から未来へと引き継ぐ、普遍的価値を持つ世界遺産にふさわしいコラボレーションである。”(出典:日経アーキテクチュア)
昨年(2016年)8月も、同じトピック↑を取り上げていましたが改めて今回の記事に目を通してみると・・
その独特な外観に手が加えられるようなことはなく、コンサートホール(コンサート劇場)など中側の改修メインで、実態は建物の寿命を長られるための措置と。
工事中の影響はあるでしょうが、見た目への影響はなく、心配する要素は皆無なようで一安心 ^^
ただ記事を読んで、オペラハウスには複数回足を運んでいるものの、内側への意識が希薄であったことを気づかされ、
コンサートホールでの音楽鑑賞など、外にとどまらず、オペラハウス全体についての好奇心を強められました。
なお、元記事↓は図面等の紹介もあり、
より改修についての理解を深められる構成となっています。