クリエイティブ・ディレクター藤島淳さんが、
” 木村九段の肉声を言葉にしたかった。長く将棋界のトップを維持し、折れても折れても立ち上がる。しかも丸い空気を身にまとっている。木村九段の言葉をどうしても伝えたくなった。”(p7)
との思いから上梓に至った『木村一基 折れない心の育て方 一流棋士に学ぶ行動指針35』を読了。
将棋は脇目で眺めているといった距離感も、何となく木村一基 前王位のことはお名前が頭に刻まれており
昨年(2021年)末のサイン本入手機会に
飛び付いていた経緯。
偉業を実現した不屈のメンタル
木村一基九段は、
” 羽生善治九段や藤井聡太2冠は中学生でプロ棋士になった。一方、木村九段がプロになったのは23歳の時。年間わずか4人しかプロに上がれない三段リーグを抜けるのに6年半を要している。
親しい仲間は先にプロになる。後輩にも先を越される。青春を、歯がボロボロになるほど奥歯を噛みしめながら過ごした。”(p3)
そして、プロ入り後
” 念願のタイトル獲得には手が届かない状況が続く。タイトル戦には6度登場するが、一度も獲得していなかった。
5番勝負、7番勝負というのがタイトル戦なのだが、5番勝負ならば、初めに2勝する、7番勝負ならば3勝する、つまりタイトルに王手をかけた状態、あと1勝すればタイトル獲得という勝負将棋に8局連続して負け続けた。3連勝後に4連敗も経験している。”(p3-4)
という経歴を持つ一方、
” 1999年には、全棋士の中で勝率1位となる。2001年には、勝率1位だけではなく、最多勝利賞、最多対局賞も獲得している。
この頃は「勝率くん」というニックネームもつけられた。ちなみに年間60勝以上をあげたのは、羽生九段、森内九段、藤井2冠、そして木村九段しかいない。超一流の実績だ。”(p3)
そこから
” 2019年、木村九段は若き実力者豊島王位に挑戦する権利を得た。タイトル戦で何度も打ちのめされ続けてきた羽生九段を挑戦者決定戦で破っての舞台だった。
実に7度目のタイトル戦挑戦だ。これだけでも頭が下がる。
豊島王位に対し、2勝3敗という劣勢に追い込まれてから見事に2連勝。結局4勝3敗で初タイトルを獲得する。46歳でのタイトル初獲得は史上最高齢での偉業。中高年の星として大きく報道された。”(p4)
と光と影の濃淡混在した戦歴で、私が木村一基九段を知ったのは王位獲得の時の報道を通じてであったろうと。
本書は、木村一基九段と直に接する機会を得た藤島淳さんが交流を通じて、
” ミスを犯しても挽回の手を探る。ミスは消せない。だとしたら、ミスをした時点から最善手を探れば良いだけだ。
最善の手を探れば、一か八か攻めに行くよりも、落ち着いて受けた方が良いケースが多い。しかも木村九段の受けは、いつかは攻める準備になっている。”(p33/ 第1章 5 過去の選択はすべて肯定して前へ進む 回り道も含めて、今の自分をつくっている)
に、
” 未知の局面の誘い込み、誰も踏み入れていない局面での一手を創造する。「ちょっとやってみたかった」新たな手は、負けることで修正され、やがて本格的な道となるのだろう。”(p49/ 第2章 3 中途半端、その意識が自分をさらに上へ駆り立てる 全力を尽くせば、次もまた全力になる)
或いは
” つらい時は、みんな突き放しますね。かえって慰めが良くないと思っています。そこは大事なんです。
勝つか負けるのかの世界で生きてきて、お互いに、何が余計な発言なのかを心得ている。結局は一人で気づいて、一人で努力して、一人で立ち直るしかない。”(p161/ 第7章 2 自分の弱点をカバーする方法は必ずある やらないのは怠慢なだけだ )
といった具合、木村一基九段の言葉を藤島淳さんの中で(将棋界や一部の世界にとどまらず)汎用性のある形で読み解いて、
” 今、道を歩けばポキポキと心が折れる音がする。みんな大変なのだ。”(p6)
と藤島淳さんが実感する時代を生き抜く示唆が
第1章 すべての経験をプラスに捉える
第2章 今取り組んでいることに全力を尽くす
第3章 人と比べない 比べなければ自分を見失わない
第4章 負けを受け入れる 恐怖心を受け止める
第5章 「ありがとう」を持ち続ける
第6章 自分の言葉を持つ 自分の特徴を知る
第7章 自分を律する それは相手に勝つというより自分に勝つため
の章立てに沿って、端的にまとめられています。
汎用性高き勝負師の心の在りよう
将棋に精通していなくとも、言葉、考えの要諦に触れることの出来る著書で、
長く日の目を見る機会に恵まれずも、地道、ひたむきな努力に何より自分を信じ切る力で
突き抜けた木村一基九段の内面に迫ることの出来る著書でありました。