小説家 百田尚樹さんが、「時間」の本質に斬り込んだ『百田尚樹の新・相対性理論』を読了。
本書を読んだ方々から「もっと早くこの本に出会っていれば・・」といったレビューが百田尚樹さんのもとに寄せられていたとの状況から
(2021年)2月初旬の購入時から楽しみにしていた著書。
伸び縮みする時間
本書は「週刊新潮」誌上での連載が、加筆修正などを経て書籍化されたもの。まず冒頭の「はじめに」で
” 人類は「長生き」のために、とんでもないことを考えました。それは医学や栄養学とは全く異なるアプローチの発想です。
このアプローチはまさに画期的なものでした。人類が他の人類を圧倒し、凄まじい発展を遂げることができたのは、実はこのおかげなのです。その発想とはどういうものか?
それは「時間の概念を変える」ということです。
・・中略・・
私はこの発見を「新・相対性理論」と勝手に名付けました。
約百年前、アルバート・アインシュタインが「相対性理論」を発見し、「時間」が伸びたり縮んだりするものだと理論的に説明して、世界をあっと言わせました。
・・中略・・
さらに言えば時間は重力によっても進み方が変化します。それらは世紀の発見と言えるものでしたが、実は人類は何万年も昔から、時間が伸びたり縮んだりすることを知っていたのです。
そう、人類は「時間の概念を変える」ことで、「長生き」が可能だということに気付いたのです。”(p10)
と示され、
本編で
” 人間の行動や心理は、実はすべて「時間」が基準になっているというのが、私の「新・相対性理論」の基本的な考えです。”(p37)
との前提に沿って、(以下のような)論が展開されていきます。
“「充実した時間が少なければ寿命が短い(時間が減る)」ということは、「充実した時間が多ければ寿命が長い(時間が増える)」。
つまり、物理的な時間は同じでも「長生き」できるのです。私はこのことに気付いたとき、自分たちの持つ「時間」の不思議さに愕然としました。”(p14)
これは
” 人間は人生の中で感動したり驚いたりすると、その出来事が強く心に残ります。喜んだり泣いたり怒ったりしても同様です。
人生を振り返った時、そうした出来事が多かった時代は、「長い時間」に感じるものではないかというものです。
逆に、そうした出来事が少なかった時代は「短い時間」に感じるのではないでしょうか。つまり「時間の濃淡」に差が出るのです。”(p39)
と説明されること。
更に、
” 人間は自分の仕事が「誰かのためになった」「高く評価された」「そのことで今がある」と思えると、辛かった思いは忘れ、逆に楽しかった思い出に書き換えられるのです。
するとその「時間」も「楽しい時間」に置き換えられるのです。これが精神的な時間の不思議なところです。
・・中略・・
つまり人生において「達成感」というものは、「過去の記憶」も塗り替えてしまうほど大きなものです。”(p54/55)
「時間」に関して深堀りされていった考察が、後半
” 私たちは何かの作業(労働)をする時、常に「評価」「成果」「報酬」を求めているという話をしました。
それらが組み合わさったものが「達成感」と呼ばれるものかもしれません。それがモチベーションとなり、肉体的・精神的にきつくても耐えられるのです。
逆に言えば、本来は楽しいことに使うためにある「有限の時間」を苦しいことに使うためには、「成果」などを含めた「達成感」が絶対に必要なのです。”(p135)
というように総括されていき、この裏返しで
” 現代に生きる私たちが日常生活で、金銭的にも肉体的にも脅かされることがないのに最も恐ることのひとつは何だと思いますか。
答えは「退屈」です。
・・中略・・/
ここで皆さんはあることに気付きませんか。それは、テレビ、映画、本、ネット、芝居、スポーツ中継などあらゆる娯楽は、すべて私たちを退屈から救うものだということです。”(p135/p141)
と、指摘、例示されることに悉く納得させられ、考えを改めさせられていきます。
人生を左右する「時間」
日ごろ我々の日常にとって不可分ながら、一般的にその本質について考える機会が殆どないであろう時間について深く思いを及ばされ、
昨年からステイホームが叫ばれ、時間に対する自由度が増すご時世下、自分自身を問われ、評判に違わぬ示唆を与えられる著書でありました〜