猪瀬直樹さんが迫った太平洋戦争の深層:『昭和16年夏の敗戦』読了

作家 猪瀬直樹さんの『昭和16年夏の敗戦』を読了。

長く猪瀬直樹さんの代表作と承知していて、先々月(2019年5月)、青山ブックセンターを訪れた際、

購入本に書かれていたサイン

サイン本の販売を見つけ、購入していたもの。

総力戦研究所と太平洋戦争

本書は

 プロローグ

 第一章 三月の旅 

 第二章 イカロスの夏

 第三章 暮色の空

 エピローグ

という目次立てで、最初、

” 日米開戦へと潮鳴りのように響きを立てていた時代。いかにもいかめしい総力戦研究所という名の機関は、何だったのか。

三十歳代の「学生」らは、いったいどういういきさつから模擬内閣の閣僚を演じることになったのか。”(p7-8)

と、予備知識ない出たしになかなか流れを掴めなかったものの

“「戦争すべきでないというより以前に、これはできないということを、軍需省や商工省のテクノクラートなら誰でも知っていた。

統監部が弾圧的に開戦を求めない限り、経済関係の研究生ながらば答えは当然否であった」”(146)

に、

” 組閣の翌々日、天皇は木戸に「虎穴に入らずんば虎子を得ずだね」といったが、東條なら主戦論の陸軍を抑えられるという苦肉の策なのである。

木戸の意図を近衛も鈴木も短時間で了解した。閣内に和平派をふやしたほうがいい。”(p186)

そして

” いま、この忠臣は天皇の期待にそえずに、天皇の信頼を裏切ったことの責任を一身に感じていた。「ガチガチだった」のだ。

臣下は「日米開戦のやむなきにいたりました」とようやくの思いでいった。天皇はただ黙って聞いていた。何もいわなかった。

・・中略・・

首相の座についてからの四十五日間は蟻地獄の苦闘といえた。

事態は彼の意に反する方向に流されたが、いま、その蟻地獄から脱けでたことによる安堵感に浸っていた。”(p114)

と、大東亜戦争(本書では「太平洋戦争」との表現が用いられていることから、他の箇所では太平洋戦争と表記)事前の期待に沿う内容、日本史の核心の一つに触れる言及に読み応えを感じることが出来ました。

導き出されていた敗戦

そして第三章以降、第一章の総力戦研究所について仔細に記載されていたことが、下記の

” 三十五人の総力戦研究所研究生にとって、あの「昭和十六年夏の敗戦 」体験とはなんだったのだろうか。

・・中略・・

社会を知らない学生のように性急で観念的でもないし、逆に熟年世代のような分別盛りでもない。

そういう知性が、シミュレーションのなかで辿りついたのが、「日米戦日本必敗」という正確な見通しであった。”(p257-258)

” 総力戦研究所には、霞が関の各省を中心に、丸の内や大手町の民間企業、それから日銀からも一人、

新聞記者も一人、三十人ほどの若手エリートが集められた。彼らは「模擬内閣」をつくる。「閣議」をやる。

データは自分の役所や会社から集めた。三十代前半ぐらいというのは仕事も覚え応用できるし、頭も柔らかい。

その「模擬内閣」が行ったシミュレーションですから、かなり正確でした。”(p271)

文面等から判明していき、すっきりした読後感を与えてくれます ^^

文庫の最後、*巻末特別対談*日米開戦に見る日本人の「決める力」なる猪瀬直樹さんと勝間和代さんの対談が収録されており、

(対談の中で)本書が出版に至った経緯、(本書の)流れや舞台裏について語られているので、

本書に興味を持たれた方は、まず巻末特別対談から読むというのも有用な読み方であるように思います。


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