井上康生前全日本男子柔道強化チーム監督の『初心 時代を生き抜くための調整術』を読了。
サイン本販売情報に
即反応して入手していた一冊。
” いつの時代も壁を突破するのは、創造性に富み、自由で大胆な発想を持つ人だと思います。
目標達成のためには、かつて誰もやったことのない手法を取り入れ、ときに周囲を驚かせます。”(p3)
の一文に始まる本書は
序章 涙の記者会見
第1章 リオから東京へ
第2章 代表選考とルールへの対応
第3章 史上初の開催延期
第4章 チーム運営
第5章 海外での経験
第6章 柔道とお金
第7章 コロナ禍での準備
第8章 東京オリンピック
終章 挑戦は続く
の章立て(別途、鼎談、対談等)に沿って、
” 監督としての私の出発点は、2012年ロンドンオリンピックの惨敗にあります。このときの日本男子は、銀2、銅3の5個のメダルを獲得したものの、金メダルはゼロ。
日本男子がオリンピックで金メダルを獲得できなかったのは史上初めてのことでした。・・中略・・
当時、強化コーチとしてチームに携わっていた私は、この結果はショックでもあり、選手に本来の力を出させてやれなかった己の力不足が悔しくてなりませんでした。”(p27)
との結果を受け、再建の陣頭指揮(監督)を託され、
” 「非快適な環境を与えること」も私が意識して取り入れていた強化方針の一つです。
合宿時の宿泊先をグレードの低い宿舎にしたり、強化合宿時の練習場をあえて毎日電車で通うような場所に設定したり、いろいろとやりました。”(p39)
と意図された試みに
” メディアからの取材では、私自身のモットーを尋ねられることも多く、そういうときもやはり、完結でわかりやすい言葉がよいと思い、次のように答えていました。
「熱意」「誠意」「創意」
「熱意」は目標に向かって取り組む情熱のこと。
「誠意」はたくさんの人の力を結集し、組織を動かしていくために必要なもの。
「創意」は革新性を忘れず、イノベーションを起こすもの。
これは『プロの条件』(致知出版社)という本の中で出会った言葉です。監督としても、一人の人間としても、私の考えに合致していることから使わせてもらうようになりました。
一方、説明しすぎないこと、わかりやすすぎないこともまた重要であると考えてきました。どんなことも、わかりやすさを求めすぎると、想像する楽しみを奪い、思考能力を低下させてしまうと思うのです。
ですから、あえてはっきりと言わず、抽象的な表現を使う場合もありました。”(p125)
といった実践された考え等から、本書クライマックスとなる
” 男子個人では過去最多となる5個の金メダル、女子個人では4個の金メダルを獲得。大会最終日の男女混合団体では銀メダルを獲得することができました。
しかしながら私は、メダルの色や数ではなく、14人の代表全員が精いっぱい闘ってくれたところに、日本柔道にとって今大会の価値と意味があったと思っています。”(p206)
先の東京オリンピックで日本国内を歓喜させ、柔道界の威信を改めて示すまで。
指導者の立場で体現されたお家芸の復権
全日本男子柔道強化チーム監督での(〜リオオリンピック)取り組みは ↓
昨秋(2021年10月)井上康生さんの著書『改革』で触れており、
本書では、それが東京オリンピックまでの期間に及ぶ形(同監督退任まで)でアップデートされた感で、
期待され一身に背負った重責を、前例に捉われない取り組みで変革していった日々、
現役時代の存在感とは別途指導者としても見事な戦績で、井上康生さんが切り拓いた道が、今後(後任 鈴木桂治監督)も継承、更に進化されていく柔道界の姿に思いを及ばされました。