15篇収録されているうち最初の「第1夜 波乱含みの予感を胸に、最後のM-1決戦を待つ夜」で
” 昨今のM-1において、強いネタ一本だけで準決勝まで勝ち抜き、決勝進出を果たすのはかなり厳しい。
なぜなら強いネタであればあるほど、「今年の誰々のネタ面白いらしいよ」とウワサになり、ネットで先に見られたりしてネタバレになってしまうからだ。
準決勝に来る鬼コアなお客さんはほぼ全員、そのネタを知っている状態で戦わないといけなくなる。”(p011)
と、本書でしばしば登場するステージを一気に引き上げることになった(2019年)M-1グランプリに始まる公私の面白エピソードに等身大の姿をまとめた軽めのエッセイ集と思いきや
” 中学の終わり頃には、「松本さんの意志を継ぐのは僕か」、そう思い始めていた。高校にいったらこのまま小、中の勢いそのままにクラスの中心人物になって人前で大爆笑をとりまくり、自信満々でお笑いの世界に飛び込むのかと思いきや・・・ 地獄が待ち受けているとも知らないで。”(p039/註:松本=松本人志さん)
に、
” 僕は地元島根の出身校へ教育実習に行った。中学校2週間と高校2週間。実習に行く前から、ここでの感触で教師になるか芸人になるか決めよう、そう思って臨んでいた。
教師になりたいという強い思いもなく、かといってほんまに芸人になる勇気もなかった僕にとって、この教育実習が人生の分かれ道になった。”(p078)
といった学生時代に抱いていた淡い思いに、
” こいつとは、絶対に仲良くならないと思っていた。おそらく「明るいというだけでAクラスに選ばれたくせに」、僕はそう思っていた。
だからこそNSCでの1年間は、濱家の動向など一切気にしてなかった。
NSCの最後の日、僕は焦っていた。結局1年間通ったのに、コンビは組めずじまい。
NSCを出るとその後は、各自で吉本のオーディションに出場し、合格すれば吉本所属になって活動するという道しかなかった。つまりNSC内でコンビを組むチャンスは、この最後の1日しかない。”(p095/註:NSC=吉本の養成所)
かまいたちの相方を務める濱家隆一さんと付き合いが(この後)始まるエピソードに、山内健司さんのライフストーリー的構成。
かまいたちワールドの設計図
かまいたちは、昼食後などYouTube かまいたちチャンネル で、独特な世界観にじんわり引き寄せられていき、
本書への興味に繋がった経緯でしたが、これまでの軌跡が順風満帆に非ず、お笑い芸人にとっての一大賞レース『キングオブコント』で挑戦を重ねる過程で
” それまで7年間はずっと準決勝まで行って敗退。「今度こそは決勝に」という思いで出場したが、なんと2回戦で落ちたのだ。これはとてつもなく恥ずかしいことだった。”(p156)
と階段を一段(ステージ)上がっては、なかなか次へ進めぬもどかしさ(の繰り返し)であったり、
” いったん僕のネタ帳(単なるノート)に書き出して考えをまとめてみる。自宅でやるときもあるし、吉本の会議室を借りて作業することもある。
このときは、とにかく「ひとり」の空間でやりたい。カフェとか図書館とかもダメで、猫以外、誰の視線も感じず、誰からも話しかけられることもなく、誰にも邪魔されず、ひとりであれこれ考えたい。
たぶん、ここが一番知恵をしぼりだす作業で、たいてい知恵熱が出る。気づいたら4時間くらいぶっ通しで作業していることもあるが、苦しいし、ひたすら面倒くさいので、なるべく短時間ですませたい。”(p169-170)
創作に至る苦悩に、
そして
” 当時、かまいたちは大阪で8本のレギュラー番組を持っていて、東京進出はそれらのほぼすべてを捨てることでもあった。当然、その分の収入はなくなる。
ヘタしたら、若い頃のようにアルバイトをしなければ生活できない可能性もあった。すでに30代後半で家庭がいるにもかかわらず。”(p181)
と、キングオブコント優勝 & M-1グランプリ 準優勝の実績を引っ提げての東京進出に賭けた思いに、
内面を掘り下げた記述に生きざま感じさせられる部分に、山内健司さんの人がらが浮き彫りになった感強く、かまいたちの世界観へより引っ張られていきそうな予感抱く読書となりました〜