建築家 光嶋裕介(こうしまゆうすけ)さんの『増補みんなの家。建築家一年生の初仕事と今になって思うこと』を読了。
(2021年)4月上旬、光嶋裕介さんの『つくるをひらく』読了の
余韻を引きずる最中、「そういえば(光嶋裕介さんの)サイン本(➡︎サイン入りポストカード)・・」とおぼろげな記憶から
書店を往訪し、入手していた経緯。
建築家 はじめの一歩
本書は、光嶋裕介さんが建築家としての第一歩を刻んだ内田樹さんの自宅兼道場兼能舞台『凱風館』の設計を依頼されてから竣工に至るまでの日々が、光嶋裕介さんの個人史を踏まえながら26項目にまとめられたもの。
タイトルにある「増補」とは、2012年7月に本書の元となる『みんなの家。 建築家一年生の初仕事』が出版されており、
26各項目後に「今になって思うこと」という形で8年経過しての思いが加筆されています。
転機となった凱風館
本の帯に
「対話する建築家」との呼称が掲げられていますが、
” 「わからない」時こそ、他者への想像力を磨くチャンスだと思って必死に勉強しました。
今になって思うのは、建築家として課題に直面すると、ほとんどの問題には「模範回答がない」ということ。
受験勉強と違って、正解があって、最短距離で合理的に解答することよりも、決まった正解のない問いを考え続けて、その時々に最良の暫定的な回答を見つけることは、結局のところ学び続ける姿勢が問われているのだと気付きました。”(p29)
に、
” 僕たちの日常が偶然性の上に成り立っているということは、「いまここ」の瞬間をたいせつにすることにも繋がります。
偶然性を受け入れるということは、予測不能性を不安がるのではなく、むしろ楽しむこと。
つまり、予定調和な因果関係ではなく、どうなるかわからない時にこそ学びのチャンスがあり、ブレイクスルーのきっかけがあると信じています。”(p224)
といった思考のプロセスに示唆を得られたり、
” 建築学科の大学院を卒業したあと、旅ではなくヨーロッパで仕事をしながら生活がしたいと考えて、尊敬する五人の建築家に率直に「働かせてほしい」と直筆の手紙を出しました。
・・中略・・
第二希望のドイツの設計事務所に職を得ることができたのです。”(p11-12)
やポルトガルの(セラルヴィッシュ)美術館を往訪した際、感激のあまり(近くにあると分かった設計事務所をその足で訪ね)
“「ベルリンの設計事務所で働いている日本人の建築家です。セラルヴィッシュ美術館に感動したので、シザ先生に逢いたいと思って訪ねてきました」と英語でインターフォン越しに話します。”(p123)
とチャレンジな姿勢に刺激を得たり ^^ 何より
” 僕の初仕事である凱風館が完成するまでは、まるでジェットコースターのような毎日でした。
しかし、完成したあとも寝る間もないくらい忙しい日々が続いています。
オープンハウスに来てくださった方から次の住宅設計を依頼されたり、ベルリンにいた頃からずっと描き続けている幻想都市風景をモチーフとしたドローイングや銅版画の個展を開催したり、そのドローイング集を出版したり、首都大学東京で助教の仕事にも就きました。”(p319)
と、一歩踏み出すごとに出逢いが放射線状に拡散していくかの様子が印象的で、建築本筋の部分でも
” 太陽の光はつねに運動しています。季節やお天気にも影響されるので、まったく同じ光というものは存在しません。
そうした日々の変化を発見しやすいような空間づくりを、凱風館では目指しました。
そこで大事な役割を果たすのが、カーテンです。ひと口にカーテンと言っても、多種多様な素材やデザインがあり、選び方次第で空間に新しい表情を与えてくれます。”(p180)
等、さまざま学びを得られましたが、建築を通じて躍動/成長されている光嶋裕介さんの姿を眩しく感じられる著書でありました。