先週末「読み始め」
をアップロードした辻一弘さんの『顔に魅せられた人生 特殊メイクから現代アートへ』を読了.-
本全体の印象から書くと、直近ではジャパネットたかた創業者高田明さんの
『伝えることから始めよう』以来の一年に一冊といったレベルの満足度。
顔、そして作品に込められた思い
内容の方は、まず、辻一弘さんの人生を決め、タイトルにも込められた「顔」に関して、
” 顔が持つ表面的な奥行きが好きだ。人の顔には表面があり、形があって、そこに感情がつき、その中に考えがあって、真ん中に魂がある。それが表面にどう伝わっているのかを見るのが楽しい。”(p209)
と言及。そして
” 自分自身、これからアートの世界で生きていくことを決意した作品 “(p207)
と位置づけられているアンディ・ウォーホール制作時のエピソードが興味深く、
” 私は日本にいた頃はアメリカに大きな憧れを抱いていた。しかし、実際に住んでみると、アメリカ人の心は満たされていないと感じた。
彼らが求めている最終的な幸せとは、家がお金や名声など表面的なものだった。
ウォーホルが作り上げたアートの世界が、今のアメリカ社会そのものになっていた。
私自身、そんなアメリカに疑問を持ち始めた時期だったので、自分の疑問と興味が全て繋がり、次の題材はアンディ・ウォーホールに決めた。”(p172)
そして(制作にあたって)心がけられたことは
” 私の作るポートレイトは、ある表情とある表情の間の瞬間だったり、ある表情に向かっていく途中段階の顔なので、
見ている人が自分の頭の中で、その先の表情を思い浮かべていくのだ。”(p176)
或いは
” 私のポートレイトは、その人の複雑な人生を表情に凝縮させることがゴールなので、自分の信じるウォーホル像を突き進むことにした。”(p178)
というもので、例えば比較で蝋人形が引用されており、
” もし表情が100%完成していたら、そこから先には何も想像が膨らまない。
だから蝋人形はいくら本物そっくり作られていても、あくまで止まった人形でしかなく、リアルさに欠けるのだ。”(p176)
という具合。
そこから綿密な取材(文献、画像等)をもとに制作が進められ、出展したマイアミのアートフェアで一番の人気作品と称され、
生前のアンディ・ウォーホールと親交のあった人物からは
” 「信じられない。この肌の感じなど本人と瓜二つだわ。そしてこの表情。これはカメラの前では絶対に見せない素顔よ。
一体どうやって作ったのかしら。本人を知っている人でなければ知り得ない表情なのに」”(p206)
との評価を得るまでに。
夢追い人たちへの金言
本書が出色であるのは、現代美術家としての矜持に作品で示される奥深さに止まらず、
「夢を追いかける人に覚えていてほしいこと」と題されたエピローグで
” 自分のやりたいことが分かっていない人が、世の中には非常に多いような気がします。
またはやりたいことがあっても、何から始めてそれを仕事にどう繋げていけば良いか分からない人も多いようです。”(p243)
とのご実感から、ご自身が歩んだプロセスに人生観が、これまた奥深く説得力のある記述が本書の締めで綴られていること。
この部分に関しては(勿体無くて)抜粋せず、是非、本書を手に取って、章全体から辻一弘さんからのメッセージを受け取っていただければと思います。