お笑いの世界から処女作『火花』で芥川賞を受賞し、
華々しく文壇デヴューを飾った又吉直樹さんの二作目となる長編小説『劇場』を読了。
夢見、葛藤し、居場所を見つけながらも悶々とする日々の果てに・・
下北沢の舞台で脚本、演出などを手がける演劇人と、演劇の世界を夢見て上京してきた女性の出会い、同棲生活を通じて
絡み合い、すれ違う感情のやり取りを軸に、同じ世界で評価を確立していく者への焦燥感などが描かれています。
先入観なく読み始めれば、読書のプロセスを通じて著者がお笑い芸人であることは分からないと思います。
前半から中盤にかけては冗長さも感じられ、読み進めるペースが遅かったながら、
後半へ向かうプロセスから一気に惹きつけられたのは、やはり一時の話題を独占しただけの筆致であるように感じました。
例えば、
” 嫉妬という感情は何のために人間に備わっているのだろう。なにかしらの自己防衛として機能することがあるのだろうか。
嫉妬によって焦燥に駆られた人間の活発な行動を促すためだろうか、それなら人生のほとんどのことは思い通りにならないのだから、
その感情が嫉妬ではなく諦観のようなものであったなら人生はもっと有意義なものになるのではないか。
自分の持っていないものを欲しがったり、自分よりも能力の高い人間を妬む精神の対処に追われて、似たような境遇の者で集まり、
嫉妬する対象をこき下ろし世間の評価がまるでそうであるように錯覚させようと試みたり、自分に嘘をついて感覚を麻痺させたところで、本人の成長というものは期待できない。
他人の失敗や不幸を願う、その癖、そいつが本当に駄目になりそうだったら同類として迎え入れる。
その時は自分が優しい人間なんだと信じこもうとしたりする。この汚い感情はなんのためにあるのだ。”(p140-141)
誰もが扱いに難儀するであろう感情を描写した件などに、その片鱗を感じました。
又吉直樹さんの世界観
普段、文学、小説の類とは距離を置いており、サイン本ということがきっかけになった一冊。
『火花』の時は賛否両論耳にした覚えがあり、話題に触れる機会は幾度もあったものの、
実像について未体験であった又吉直樹さんの世界観に触れることの出来た、書店での一つの良ききっかけであったように思います。