安倍晋三元首相が自身の言葉で在任中の日々を振り返った『安倍晋三回顧録』を読了。
本書出版について承知していましたが、不幸にもお亡くなりになられた後で、「?」と思っていましたが・・
” 私たちが安倍さんに「回顧録」出版のためのインタビューを申し入れたのは、首相辞任を表明される1か月半前の20年7月10日でした。
お願いした一番の理由は、なぜ通算の首相在任期間で戦前の桂太郎を抜いて133年の憲政史上最長の政権になり得たのか、その理由と政策決定の舞台裏、煩悶と孤独の日々をご自身に語ってもらいたいと思ったからです。
・・中略・・
安倍さんにとっても政治的疾風怒濤の時代をきちんと残しておきたいという気持ちがあったのでしょう。こうして20年10月から1回2時間のインタビューが始まり、21年10月まで18回、計36時間にわたって行われました。”(p2/p4)
というきっかけ/経緯を辿り、2023年2月出版に至った回顧録(聞き手 橋本五郎さん、尾山宏さん/兼 構成、監修 北村滋さん)。
第1章 コロナ蔓延 ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで
第2章 総理大臣へ! 第1次内閣発足から退陣、再登板まで
第3章 第2次内閣発足 TPP、アベノミクス、靖国参拝
第4章 官邸一強 集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足
第5章 歴史認識 戦後70年談話と安全保障関連法
第6章 海外首脳たちのこと オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン
第7章 戦後外交の総決算 北方領土交渉、天皇退位
第8章 ゆらぐ一強 トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威
第9章 揺れる外交 米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉
第10章 新元号「令和」へ トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ
終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由
という目次立てで396ページ+資料(安倍政権の歩み 等)という構成。
再起、そして目指したこと
本編で特に印象に残った箇所を下記に3つ引用すると・・
戦後最年少52歳で首相の座に就くも不本意が形で幕引きを強いられたところから
” ー 再起を期すきっかけとなった出来事はありましたか。
第1次内閣で内閣広報官を務めていた長谷川榮一氏の誘いで、2008年春に高尾山に登ったことが大きい。
そこで多くの人から声をかけられました。「安倍さん元気になったんですか」とか「頑張ってください」と激励されました。それが自信を回復することにつながりました。
厳しくマスコミに叩かれ、自信も誇りも砕け散った中から、だんだんともう一度挑戦しようという気分が湧いてきました。”(p91)
及び
” そもそも政治家として目指したものは、憲法改正であり、拉致問題の解決でした。その問題が残っているのだから、政治家を続けていこうと。
だが、総理経験者として永田町に残るのではなく、もう一度、総理として問題の解決に挑戦したいという気持ちが湧いてきました。”(p91)
という意外性感じられた再起への転機に、原動力に。また、
” 薬事承認の実質的な権限を持っているのは、薬務課長です。内閣人事局は、幹部官僚700人の人事を握っていますが、課長クラスは対象ではない。官邸が何を言おうが、人事権がなければ、言うことを聞いてくれません。”(p37)
に、
” 17年の国会で改正組織犯罪処罰法を審議する直前、テロ等準備罪の分かりやすい事例を出してくれと法務省にお願いしたら、その内容が私ではなく、なぜか民進党に渡ってしまったのです。
単なるミスだったのか、法務省が私を困らせようとしたのかよく分からないのですが、霞が関では時々、こういうことが起きるのです。”(p56)
と指導力を発揮した総理大臣といえども容易ではない官僚たちとの攻防に、
” 彼にはこうも言われました。「日本人は何をやっているんだ。かつての日本人の精神を失ったんですか。国のために散った多くの人が靖国に祀られている。そこに指導者が行くのは当然のことじゃないですか」とね。もう、ぐうの音も出ませんでした。”(p207)
という台湾の李登輝元総統との回想に。
各国指導者たちとの舞台裏
その他、特定の事項を抜き出すことは難しいですが、
” 日本は、中国から尖閣諸島を守りつつ、北朝鮮のミサイルの脅威にもさらされ、ロシアとも難しい関係にある。日米同盟があるとはいえ、そんな状況で大丈夫なのか、ということですよ。多くの外交の懸案、脅威を抱える中、対露関係を大きく改善する必要があると思ったのです。だから、北方領土の返還を現実問題としてとらえ、俎上に乗せようとしたのです。”(p217)
の近隣情勢を踏まえ展開された(地球儀)外交では
” 中国の指導者と打ち解けて話すのは、私には無理です。ですが、習近平は首脳会談を重ねるにつれ、徐々に本心を隠さないようになっていきました。ある時、「自分がもし米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する」と言ったのです。つまり、政治的な影響力を行使できない政党では意味がないんだ、ということです。”(p186)
に、
” 大統領のお付きの人が、「大統領にも次の日程があるのでそろそろ」と打ち切ろうとしたら、トランプが「この人にとってとても大切なことを話している。最後まで聞こう」と言って、十分に時間を取ったのです。その後、トランプが移動するのですが、有本さんが「実はまだ言い足りないんだ」と言う。そこで有本さんからトランプに手紙を書いてもらうことにしたのです。
その後、首脳会談の時にトランプに手紙が渡され、帰国後、トランプは有本さんに直筆で返信を寄越したそうです。「私はあなたのために頑張っている。安倍首相もそうだ。あなたは必ず勝つ」と英語で書かれていたそうです。トランプの誠実さを感じました。”(p348-349)
といった当事者だからの生々しいエピソードも散見され、読みどころになっています。
在任中、是非が論じられ溝も浅からぬものと承知。私自身、積極的に安倍政権を支持していたという立場でもなかったですが、読書中から失われしものの大きさを感じさせられずにはおれず、一年前の凶行が改めて悔やまれました。
特に国際情勢の複雑化を痛感させられる昨今、世界各国の指導者から信頼を期待を寄せられる指導者の登場を強く願わされた回顧録でした。