元プロ野球選手、東京ヤクルト・スワローズで活躍された宮本慎也さん著『歩 ー私の生き方・考え方ー』を読了。
宮本慎也のキャプテンシー
「読み始め」の回に書きましたが、
>> 宮本慎也さんに学ぶ「個の厳しさ」とチームを牽引するリーダーシップ:「歩 − 私の生き方・考え方 −」読み始め <<
本著を手に取った主な動機は、後輩、監督などから絶賛される宮本さんのリーダーシップに関して触れてみたいとの事でしたが、その件(くだり)は、アテネ五輪予選の際、
” キャプテンとして心がけたことといえば、チームにいるときは特にしっかりとした行動をとり、しっかりとしたプレーをするというだけです。
他のメンバーと比べても実力的に足りないと思っていただけに、黙って背中で引っ張るというキャプテンでは務まらないと思っていました。
気がついたことがあれば、積極的に発言していこうと心がけていました。 ・・中略・・
予選が終わった夜、みんなで食事をしたのですが、私はひと足先にホテルの部屋に引き揚げました。
お酒が飲めないこともあるのですが、みんなに感謝の気持ちを伝えるための手紙が書きたかったからです。
選手全員と裏方さんたちひとりひとり、それぞれの部屋のドアの下に手紙を潜り込ませました。” (p203)
表面的な事ですが、一人ひとりに手紙を書く事は宮本さんならではの人心掌握術とも感じられますね。
但し、本人はリーダーシップに関して、評価が控えめのところもあり、
” キャプテンとは立候補するようなものではありません。そのチームに合った人が選ばれるものなのです。
代表チームのキャプテンとして私が評価されるのは、間違いです。
アテネ五輪の長嶋監督、北京五輪の星野仙一監督が私を任命してくれただけで、私はたまたま代表チームという特性に合っていただけだと思っています。” (p210)
と、さらっとされています。
重視、推奨される基本技術
本を読んでいて印象的だったのは、技術論に記述が割かれたいた事。間違った定説に惑わされないようとの思いが伝わりましたが、
字面だけでの説明となっており、頭で理解出来たかは「?」な面も有り、他の読者についても同じ感覚を抱かれた人も多いとみられます。
挿絵があると理解を助けてくれたものと思いますが、219ページに及ぶ分量から、この手の本にしては既に十分な厚さで、それが出来ない事情もあったものと推量されるところです。
「宮本慎也」の野球選手としての運命を決めた恩師との対話
入来祐作さんの本と同様、PL学園時代の上下関係の厳しさ(ex. ピリピリした雰囲気、愛のムチ)は言及されていますが(笑)
印象的であったのは、同志社大学時代にプロ入りのチャンスを迎え、野口監督と意見が対立した場面・・
” 何が何でもプロに行きたい私の意向と、社会人野球入りを勧める野口監督の考えは正反対でした。
正反対になった最大の要因は、ドラフト指名してくれそうな各球団の評価が、それほど高くなかったからです。
おそらく、どの球団も四位以下の指名になるだろうということでした。
野口監督の意見は「お前のようなタイプの選手は、一軍にいられればそれなりのレベルで順応できるだろう。
でも、二軍にいたら、そのままアピールできずに二軍のままで終わる可能性もある。
一軍で起用してくれれば評価は上がるだろうが、二軍のままでは、二軍の選手としての評価しか受けないだろう」というものでした。 ・・中略・・
だから、野口監督は「社会人で評価を上げ、ドラフト上位で指名されるような選手になってからプロへ行け」という評価を曲げませんでした。
悔しい評価ですが、冷静に自分を振り返ってみても、的を射た意見です。・・中略・・
しかし、わかってはいても簡単に引き下がれません。高校から大学にかけて、誰よりも練習してきたという自負があります。
「自分よりも練習したやつはいない」と自負している選手は多いでしょうが、私もそのひとりです。
プロ入りするチャンスを目の前にして、社会人で野球をやるという選択肢は考えられませんでした。 ・・中略・・
そんなとき、野口監督の言葉が重くのしかかりました。
「お前はプロに行けたらいいのか?それともプロで活躍したいのか?どっちなんだ?そんなんでケガしてダメになったり、評価を落とすようなやつは、最初からプロでは活躍できないんだよ」 ・・中略・・
せっかくプロで通用する実力があるのだから、二軍からやるのではなくて、しっかりと一軍で起用してもらえるような実績を残し、
環境を整えてからプロ入りしたほうがいい、という考えです。頭を殴られたような衝撃でした。
私には妙に素直な部分があります。「それもそうだな」と手のひらを返したように納得しました。
社会人に行けば、二年間はプロ入りできません。しかしプロ入りしても、たったの二年でケガをするようなら、チャンスをものにできないダメな選手です。
ケガをしないタフさにも、自信がありました。それなら、社会人でやってやろうという考えに変わりました。 ・・中略・・
「夢」をもつことはとても大事です。厳しい練習に耐えられたのも、自分で努力して頑張ってこられたのも、
「プロ入りしたい」という「夢」があったからです。しかし、「夢」と「欲」は紙一重のところにあります。
「急がば回れ」ということを、熱心に情熱と愛情をもって説いてくれた野口監督がいなければ、気がつかなかったかもしれません。
私の「プロ入りの夢」は、なくなりました。夢ではなく、「プロで活躍する」という明確な目標に変わりました。” (p154〜158)
「出逢い x 決断」によって作られる人生
この時点(大学卒業時)で、宮本さんがプロ入りしていれば巨人から指名を受けた可能性が高かったようですが
宮本さんが自分の意見を押し通していれば、後に名球会入りする事になる宮本慎也が生まれていたかどうか、運命の交差点ですね。
ただ、この一文の中でプロ入りが「夢」ではなく、プロで活躍する事が目標になった事が
「宮本選手」としての運命を決定付ける要因になったものと読解し、本の中で最も印象的な学びとして胸に突き刺さってきました。