先日、刊行記念講演会に参加した
大下英治先生の『幹事長秘録』を読了。
政治を動かす幹事長の腕力
本の中、後半(前半は中間記で取り上げ)は、
郵政解散に代表される小泉純一郎政権時の山崎拓、安倍晋三、武部勤の各幹事長が果たした役割、
或いは政権交代が起こり、小沢一郎幹事長が民主党幹事長で目指した制度改革など。
更に、話しは(第二次)安倍晋三政権時の内容も収録され、谷垣禎一、二階俊博幹事長の時まで。
その他、時を遡れば「加藤(紘一)の乱」の鎮圧に奔走した野中広務幹事長のエピソードなど網羅的に昭和四十年以降の政治史がカバーされています。
必然的に時代が今に近づくほど、関心を高く持つようになり(=初めて知る話題が多い)ましたが、
谷垣禎一幹事長(当時)の
” 現代は、非常に先の展望が見えにくい時代になっていると思うんです。
これは日本だけの話ではなく、アメリカの大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の躍進など見ていてもわかるように、
安定したバランスの取れた人よりも、閉塞感を壊すような期待を抱かせる激しい印象の人を求めるところがあるのかな、と思います。”(p313)
と世の中が政治家に期待していることの捉えに、長く懸案として横たわっている隣国との関係について、中国については
” 中国が世界の中心であるという中華思想も強く持っています。それが具体的にどういうところに現れるかというと、彼らの考える中華思想が、国際法の秩序と矛盾する場合があるわけなんです。
それは中国の持つ対外的な領土的欲求に現れていると思います。だからといって、中国も国際法を否定しているわけではありません。
むしろ、自分たちに都合の悪いところを薄めて、都合のよいところを使おうと、極めてプラグマティックに国際法を研究していると言ってもいいかもしれません。”(p314-315)
韓国については
” 「韓国は、ずいぶん成長しましたが、民族分断の歴史もありますし、周囲には中国や日本があり、アメリカの影響も受けざるを得ない立場にあります。そこに韓国の苦労があります。
自国よりもボリュームの大きい国に取り囲まれた状況のなかで、どうやって自分の国を立てていこうか、という難しいジレンマがあるわけです。
隣国の日本は、その韓国の難しい状況、立場をある程度、理解する必要があると私は思っています。”(p315)
といった大局的な捉えは(本書の主題からやや外れるかもしれませんが)政治関連のトピックに触れる上で、重要な論点であろうと読み進めている中で突き刺さってくる部分でした。
日中関係を動かす、二階・習近平ライン
また、二階俊博幹事長の中国と築いている独自のパイプも同様で、
” いまでこそ、会えばにこやかに握手程度は交わす中国の習近平中華人民共和国主席と安倍首相の関係だが、ほんの少し前までは、口も利かないような関係だった。
それを「このままではいけない」と、「一帯一路」に対する政府間交渉のなかで、二階が剛腕を発揮し、変えていく。
安倍政権は、「一帯一路」は中国の支配する政治経済構想であり、日米は関係せずという方針で臨んでいた。
当然、そのことは中国側の承知していて、平成二十九年五月十四日、十五日に北京で開催された「一帯一路」国際会議の式典に安倍首相には招待状を送らなかった。
ところが、二階には招待状が来たのだ。外務省や官邸筋の一部が「行かないでくれ」というのを押し切って、二階は中国に向かった。
二階には「ここで行かなければ、日中関係は完全に冷え込む」という読みと危機感があった。
・・中略・・
五月十六日の北京の釣魚台国賓館での習近平国家主席と二階の面談が、日本側の駐中国大使が驚くほどの和やかな面談となった。
駐中国大使は言っていた。
「こんな穏やかな秀主席は見たことがない。素晴らしい」(以下省略)”(p343)
と、昨今の日中接近はドナルド・トランプ大統領の外交姿勢の変化によるものと受け止めていて、その側面は大きいかと思いますが、
引用した動き(信頼関係)も影響してのことであろうと、希望を感じた部分で、本書の主題に沿えば幹事長が果たす役割の大きさも感じるところでもありました。
本を手に取る前は349ページにも及ぶ厚さに意識が向かいますが、一旦、読み始めると、政権与党No.2 幹事長から見た近代政治史がコンパクトにまとめられている一冊でありました。