『日本ラグビーの歴史を変えた桜の戦士たち』を読了.-
今まで、「読み始め」「中間記」と2回に分けて概要をアップロードしてきましたが、
最後の9選手は松島幸太朗選手、カーン・ヘスケス選手、五郎丸歩選手など、ワールドカップ中に活躍の目立った選手。
その中で今回取り上げたいのは、最終章を単独で飾るリーチ マイケル選手の前任のキャプテンで、
本書の出版を「日本ラグビーの将来のために記録を残したい」との思いから(出版に携わる)朝日新聞スポーツ部記者(野村周平さん)の方に提案した廣瀬俊朗選手。
廣瀬選手自身はワールドカップの舞台に立つことは終ぞ叶いませんでしたが、縁の下の力持ちとしてチームを支えた姿勢が、本文から染み入ります。
熾烈を極めたポジション争いにメンタル
まず、取材にあたっていた新聞記者(野村周平さん)からみたラグビー日本代表の姿は・・
” この31人は、決してべたべたした「お友達」の関係ではなかった。常人なら悶絶するような練習の日々。
代表生き残りをかけた壮絶なポジション争い。そして、エディー・ジョーンズという絶対的な実績を持つ激烈な指導者との衝突があった。
逃げ出したくなる己を向き合う。そんな葛藤の連続だった。
心身ともに「崖の際」を歩くチームを、先頭に立って光り輝く地に引っ張り上げたのは主将のリーチ マイケル。しんがりとして、それを包み込み支えたのが、廣瀬だった。”(p268-269)
日本代表「前キャプテン」の苦悩と葛藤
そして話の主人公である廣瀬俊朗選手は、2012年3月、エディー・ジョーンズに主将就任を打診されるも、2014年春・・
” エディーさんには、お前は試合に常に出られない可能性がある、だから主将にはできない、といわれた。
僕はジャパンのキャプテンという役割に、心からやりがいを感じていた。だから、自分でもこれから先どうしたらいいのか、分からなくなった。
自分はジャパンを外れた方がいいのではないか、と本気で考えた。
ストレスがたまって、蓄膿になったり、痔になったりした。体調を崩して、代表を短期間リタイアしたこともあった。
少し前までジャパンの中心にいたのに、いつのまにか自分の居場所がなくなってしまったように感じた。それは、本当につらかった。
・・中略・・
そんな時、仲間たちが声をかけてくれ、助けてくれた。本当に感謝している。みんなによって救われて、チームのために何ができるかを必死で考えた。
そして、「この試練も僕がもっと成長するための糧なのだ」と考え直すことができた。ジャパンでもう一度頑張りたい。そう思えるようになった。”(p273-274)
そこから主にチームを支える、チームの声を代弁する役回りを意識するようになるが、方や試合で起用される機会は殆ど無くなっていき・・
” 1プレイヤーとしてのラグビーへの能力に対してでなく、チームが勝つために必要な人材であることが分かった。
そんな複雑な感情の中で腐ることなく踏ん張れたのは、日本ラグビーを変えるという大義があったから。
・・中略・・
エディーさんはある時点で、覚悟を決めていたのだと思う。W杯で勝つために、僕を試合で使うのではなく、チームに必要な人間として使うことを。
だからといって彼を恨んだりはしない。僕も覚悟を決めた。”(p278)
但し、W杯最終戦となるアメリカ戦に挑むに当たっては複雑な感情が交差し・・
” アメリカ戦のチーム内でのメンバー発表で、メンバー外と言われた時はつらかった。もう、試合に出られるチャンスはない。
夢にまで見たW杯に、もう出られない。分かっていたけど、切なかった。その前の試合までは「次、次」と前向きに思えていたから。
エディーさんはみんなの前で、「湯原と廣瀬は本当によくやってくれた」と言ってくれた。
試合に出ていない僕らの頑張りを評価してくれるのは、うれしいことだ。
でも、その時にみんなに認められることが、かえってつらかった。「ほっといてくれ」と思った。
いろいろなことを思い出して涙があふれそうだった。この時の感情は忘れないと思う。
出られないからやる気をなくすとか、腐ってしまうとか、日本代表は、そういう小さいことをいう場所じゃない。
そして、チームが勝って、日本のラグビーが変わっていくことが幸せだった。悔しさを超越する喜びがあった。”(p282)
ALL FOR ONE, ONE FOR ALL
試合に出場して活躍し脚光を浴びた五郎丸選手、松島幸太朗選手、リーチ マイケル選手等の陰で
極限の域まで緊張感が張りつめたチームのため、憧れの舞台を目前としながらも、個の立場を犠牲にし、
チームを支えた選手があったからこその偉業であったことを本書を通じて学ぶことになりました。
廣瀬選手の脳裏を巡った葛藤の壮絶さは、本からだけでは知ることのできない闇であったと思いますが、
こういった自己犠牲が選手間で共有されていたからこそ、ピッチでプレーしていた選手たちも、今までの日本代表にない次元での質の高いプレーを貫徹することが出来たのでしょう。
昨今、W杯をはじめとするラグビーに関する出版が多い中で、本書はラグビー日本代表の軌跡を全選手の証言をもとに辿ることが出来る貴重な一冊です。