大阪市立大学大学院経済学研究科准教授斎藤幸平さんの編著
『未来への大分岐』を読了。
本書は、斎藤幸平さんが、
” シンギュラリティの時代がもたらすのは、普遍的人権や自由・平等が否定される「人間の終焉」かもしれないのである。
最悪の事態を避けるためには、資本主義そのものに挑まなければならない危機的段階にきているのではないか。それが本書の問題提起である。”(p4〜5)
という時代認識、条件づけのもと、左派に論陣を張り世界的に名を博す
マイケル・ハート(政治学者・デューク大学教授)
マルクス・ガブリエル(哲学・ボン大学教授)
ポール・メイソン(経済ジャーナリスト)
との対談を通じて、議論を深め光を見出していこうと試みられているもの。
現代(いま)に露呈する歪み
馴染みのない用語等々「難しかったなぁ」と感じたのは、自分自身及び身近なところに考えが及んでも、
本書で論じられている社会の在りようまで思いを巡らせていなかったこともあろうと思いますが、
各議論で印象に残ったところを抜粋すると・・
第一部 マイケル・ハートでは
” 理解しておくべきなのは、資本主義が、とりわけ先進国において、一九七〇年代にすでに資本蓄積の危機に直面していたという点です。
そうした資本主義の危機をどう乗り越えるべきなのか、という問題に直面して、編み出された戦略が、新自由主義だったわけです。”(p20)
との流れに
” 新自由主義は、社会に直接的に貢献する仕事の多くを非正規化し、安定した生活ができる仕事を不安定で、低賃金の労働で置き換えてきました。工場の労働者やバスの運転手などがその影響を被っています。”(p30)
と流れによって裂かれた現実。
第二部 マルクス・ガブリエルでは
” 哲学とは何か。それは、理由付けについての理由付けです。つまり、思考についての思考を扱うのが哲学であり、哲学とは、概念についての反省的な思考だとも言えます。
では、概念を扱う哲学がなぜ役に立つのか。私たちの社会が、概念の問題を抱えているからです。
現代において、私たちが思考をする際に用いている概念の多くは誤りの多い欠陥品で、あちこちに論理的な間違いがある。
それは許容できるレベルのものではありません。正しい概念をもたずして、現実の問題が何なのかを見てとることなど不可能です。”(p133-134)
と、現代人が哲学を学ぶべき背景に、
” フェイスブックやツイッターなどのSNSは情報の喫煙とも言えるもので、多くの害、知的な害をもたらしています。
ウィキペディアも喫煙に似ています。「ウィキペディアにはあらゆる情報があって、素晴らしいじゃないか」と思うかもしれませんが、本当の情報は得られません。
生煮えの情報しか得られないのです。”(p142-143)
と我々の多くが半ば習慣と化している行為への警鐘。
第三部 ポール・メイソンとの議論では、
” 斎藤 住宅以外にも、あらゆるモノの完璧なコビーが情報技術によって瞬時に製作され、その商品のコストがほとんどゼロとなり、無料のモノやサービスがあふれることになれば、市場における価格メカニズムそのものが機能しなくなる。つまり利潤の源泉も枯渇してしまう。
ポール・メイソン しかも、ひとつの企業が無料に近いモノやサービスを開発・提供したなら、他の企業も追随せざるをえない。”(p243-244)
との炙り出しから
” ポール・メイソン まず、限界費用ゼロ効果に抵抗して現れてきたものは、何か。大規模な市場の独占です。
市場を独占すれば、生産コストよりも価格を押し上げ、儲けを獲得することができます。
斎藤 たとえば、スマートフォンの市場で大きなシェアを握るアップル社は、原価およそ四万円強と言われるiPhoneを二倍以上の値段で売ることができる。”(p263)
という議論への発展は、昨今、遡上に乗せられることの多いGAFAの問題について考えてみる良い機会となりました。
対岸からの・・
本書購入の前段階には刊行記念トークイベント⬇︎参加という段階があり、
助走という意味で役立ち、このところの読書はもっぱら保守に傾いている自分自身としては
反対側/異なる立場からの問題意識の提起、議論といったことに消化に至らずとも発見を得ることが出来ました。