作家 佐藤優さんが、埼玉県立浦和高校時代の親友 豊島昭彦さんがステージ4の膵臓がんの宣告を受け、相談を受ける中で、
“「君の人生について本にまとめてみないか。家族、職場の同僚や部下、学校の後輩たちに伝えたいことを文学にするとよい」”(p6)
との提案から出版に至った『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』刊行記念トーク&サイン会に参加。
本書のテーマである友情と、そして親友が死と向き合わざるを得ない状況に直面したことで、
どのような心情がお二人に駆け巡ったのか、その点に強い関心を抱いて参加。
生きた証
冒頭約30分は佐藤優さんの本書が出版に至った経緯の説明で、豊島昭彦さんから医師から明らかにされた病状に関する連絡を受け、
「与えられる時間の中で何をしたいか?」との問いから本を出すとの結論を導かれ、
それに対して、豊島昭彦さんは最初「本にするような人生ではない(=誰も読んでくれる人はいない)」との認識に躊躇いを感じたものの
優秀な学業を成績を収めたものの会社の破綻に二度の転職に、外資系企業が日本に入ってくるという経験は、多くの人に普遍的な学びを与えると佐藤優さんが回答し、
そこから出版に取り組む日々がスタート。
佐藤優さんの方では、時間が限られる親友を商業出版の対象として扱って良いのか葛藤があったものの、
その言及に対して豊島昭彦さんは「佐藤君によって永遠の命を得られたと思っている」と謝意を表明。
根治なき状況での苦悩
お話しを耳にしていて重く突き刺さったのは、佐藤優さんが、患者が一般的に根治の見込みのない状況に追い込まれると
心理的に耐えられなくなり、代替医療の検討を始めることに宗教が入る込んでくる傾向を指摘。
あくまでオーソドックスな治療が基本であるべきとの点を豊島昭彦さんに助言され、
豊島昭彦さんも一度は代替医療の導入を視野に入れたものの、最終的には佐藤優さんの助言に沿った選択に至ったそうな。
また、ステージ4の膵臓がん患者の余命の中央値291日だそうで、
一見、目の当たりにした豊島昭彦さんはなんらお体に深刻な状況を抱えておられる様子には見えなかったものの
体内でのがん細胞の侵食は着実に進行しており、中央値から大きな乖離をもたらす楽観的予断は許されぬという現実。
実際、本イベントも豊島昭彦さんの身にいつ何が起こってもおかしくない状況から急遽、短期間の告知で開催に至った背景が。
更に刺さってきたのが、お二人の関係に関して佐藤優さんが、本にも書かれていましたが、
“友情と、共に過ごした時間の間に、直接的関係はない。”(p10)
との指摘。
お二人が濃密な時間を過ごしたのは浦和高校一年生に限られていて、卒業後40年の空白期間があり、
再会の機会が一度あって、そこから5ヶ月後(2018年10月15日)状況を一変させる連絡を受けてから
往来が活発になったようですが、間近に感じた雰囲気は相互に対する全幅の信頼感で、
絶望的な状況に直面した親友に出来ることを惜しまない佐藤優さんの姿勢に、
佐藤優さんを得て生きがいを見出したかの豊島昭彦さんの前向きさに、
二人の関係をとても羨ましく感じ、会場に居合わせた多くの方々も同じ思いであったものと思料します。
友情の軌跡、そして生きることとは・・
対象書籍『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』はイベント開始前に数ページ読んだ程度。
トークの最後に行われた質疑応答で、読まれた方の感想の断片を耳にすると、友情に関して濃密な描写も含まれている模様で
トークをイントロダクションとして、本に書かれてあることに心して向き合いたいと思いました。