作家 重松清さんの『ニワトリは一度だけ飛べる』
を読了。
3月上旬、ふらっと立ち寄った書店でサイン本を見つけたことがきっかけで購入。
冒頭、
” この物語は、平成の半ば頃、とある冷凍食品会社で起きた内部告発事件をめぐる。ささやかなゲリラ戦の記録である ー。
筆者はこの物語を事件の直後、二〇〇二年から翌年にかけて、いったん週刊誌連載で発表したものの、
諸般の「事情」があって(小説と銘打ち、戦記というよりむしろ寓話に仕立てあげたつもりでも、やはり少なからぬ関係筋を刺激することになってしまったのだ)、単行本化を見送った。
しかし、平成が終わろうとする頃になって状況が大きく変わった。 (以下省略)”
と只ならぬ但書き?を受けて始まる本編は
世に言うリストラ部屋に集められた三人と一人が、それぞれ辿ってきたこれまでに身を置く環境に
未来を見出すべく生きざまを問われ、そのような最中に主人公(三人の中の一人)の下に届いた
” 祐介は気おされながら、やむなく会社のパソコンを起動させた。メールが一通届いていた。
『ニワトリは一度だけ飛べる』という件名だった。”(p34)
と差出人不明のアプローチがあり、
時間を追って人間関係が絡み合っていき、エンディングへ雪崩れ込んでいくというもの。
このところ読んでいた小説が、場面設定が込み入ったSF小説@筒井康隆作品に偏っていたことから
本作で描かれた設定は早々に捉えることができ、読み始めから程なく「早く次を(読みたい)・・」という状態に惹き込まれる小説の醍醐味を実感させてくれる力作でした。
問われる生きざまと、現実と
重松清さんの著書は数年ぶり、代表作に位置づけられるであろう
『とんび』を読んで以来と記憶していますが、
真正面から読み手の感情を正攻法に引き出される作法は重松清さんの筆力に他ならないであろうと。
実話に基づいたものなのか、フィクションなのか追いきれませんでしたが、どこの会社でもあり得るであろうリアリティに、
「その気持ち分かるなぁ」といった巧みな描写に、読後感じる現実性に・・ さまざまな感情を引っ張り出され、大いに読み手を惹き込んでくる作品です。