ラグビー界のスーパースターにして、2015年にラグビーワールドカップで(ニュージーランド代表)ALL BLACKS:オールブラックスを連覇に導く主導的役割を果たし、
個人でも三度、ワールドラグビー年間最優秀選手賞に輝いているDan Carter:ダン・カーター選手の『ダン・カーター自伝 オールブラックス伝説の10番』を読了。
第5章までのところは中間記 ⤵︎ で一旦区切りとしたので、
今回は主に第6章から第16章までで、印象的であったところを。
栄華を極めた裏側での苦悩に苛まれた日々
21歳にしてオールブラックスに選抜されるようになり、やがて世界最高のスタンドオフの称号を手にし、
順風満帆なキャリアかと思いきや、自国開催となった2011年のワールドカップでは、
大会中の試合直前のキック練習中の大怪我により、途中離脱。以降も、治ったかと思えば負傷してしまうといった繰り返しで
若手、中堅と齢を重ね、チームの中での役割が変わるにつれて
” 昔なじみのチームメイトの姿が五人いればラッキーな方だ。古い戦友たちもみな、僕と同じように怪我に泣かされ、チームを出たり入ったりを繰り返している。
プロ生活の最後の輝きを求めて北半球のクラブに移籍し、二度とオールブラックスに戻ってこない者もいる。
その度に、僕は新たな喪失感を覚える。そして、チームの中心と結びついているという感覚が、薄れ始めていくのを感じる。”(p301-302)
やがては
” ラグビーを辞めたいと思った。
・・中略・・
この辛い期間、僕の心の支えになっていたのはサバティカル(註:長期間勤務者に与えられる長期休暇)だった。
二〇一三年の末に、半年間の休みがもらえることになっていた。
それは遠くに見える灯台の明かりだった。もしサバティカルがなかったら、僕はおそらく現役を続けることをどこかの時点で諦めていたのではないかと思う。
だけど僕は毎日、一歩ずつ休みが近づいているのを実感できた。なんとかこのシーズンを乗り切れば、休暇が待っていると自分に言い聞かせた。
六ヵ月間ラグビーから離れ、心を身体を立て直すことができる。
そうすれば、再び新鮮な気持ちでラグビーに向かえるはずだ。ラグビーを愛する気持ちを取り戻せるはずだ、と。
辛かったのは、そんな気持ちをチームメイトには伝える気持ちになれなかったことだ。それを話すことが、仲間のためになるとは思えなかった。
ラグビー選手に弱気な態度は似合わない。岩のような屈強な人間であることが、ラガーマンの売りにもなっている。
そうしたイメージを保つことで、観客やスポンサーを惹きつけることはできる。
でもその代わりに、心の内側にどんな思いを抱えていようとも、表向きは強い人間を演じなければならないのだ。
ラグビーは大きな犠牲を求められる、残酷なスポーツだ。”(p302-303)
と、チーム、個人(テストマッチ個人通算ポイント数歴代最多記録保持者etc)ともラグビー界で最高の栄誉、評価に与っていながらも、その裏側での苦悩が克明に描かれており、読み手に深く訴えかけられるかの感覚を抱きました。
超一流たる証明、輝ける舞台
オールブラックスでの最後となった、2015年のワールドカップも
” 大会前に正スタンドオフと目されていたクルーデンが膝の怪我で大会出場が絶望となると、カーター待望論は再燃した。
大会前に行われたラグビーチャンピオンシップでは、全盛期を彷彿とさせるランを披露し、本大会では「三三歳にして、ここが彼の全盛期」だったことを世界に知らしめた。”(p349/解説)
と、それまで再三に渡る故障から周囲の評価が落ちていたところ、チームメイトの故障により晴れ舞台が巡ってきたような経緯で
いかに超一流を保ち続けることの厳しさに、大舞台に照準を合わせられるかの難しさを実感させられました。
本書を読み進めるにあたり、ラグビーに関する全般的な理解は求められることになると思いますが、
それがあれば、最高峰の選手の視点を通じて垣間見るラグビー界、そこで戦うこと、勝ち抜いていく姿勢などが描かれており、350ページの厚みもあり、相応の読後感を与えてくれるものと思います。