筒井康隆先生のショートショート集『あるいは酒でいっぱいの海』を読了。
2021年8月の再発に合わせ、
サイン本が発売されたチャンスを捉え入手していた作品。
「一体全体、筒井康隆先生のタイトルって何冊?」と2021年に入っても新刊に、再発に次から次に・・ との印象ですが、
昭和に出版されたショートショート集に限れば、巻末の日下三蔵さんの「解説」によると、本作を含め『にぎやかな未来』『笑うな』『くたばれPTA』の四作品にとどまるそうな。
本作に関して、筒井康隆先生ご自身は昭和五十二年十月に書かれた「あとがき半分・解説半分」で
“「トンネル現象」は十数年前「科学朝日」に、「九十年安保の全学連」は十年ほど前「週刊朝日」に、「代用女房始末」もその頃「週刊読売」に、それぞれ書いたものだが、同じアイディアで短篇を書いたり、漫画化したりしたため、本には入れなかった作品。
こういったものを収録してもまだ本にするには枚数不足。しかたなく、同人雑誌時代の未熟な習作も加えることにした。
このあたりの作品がいちばん恥かしいわけで、読み返しても顔が赤くなる。”(p221)
と述べられており、要は若かりし頃の出版を想定していなかった短編集であると。
全218ページで、三十篇(「ケンタウルスの殺人」「ケンタウルスの殺人」解決篇 を一作品でカウント)を収録。
短いもので2ページ、長いものでも約20ページにとどまり、大半はサクッと読み進められ、特に評価を確立してからは難解な作品も多い中、本作は筒井作品の原型を見た思いを。
本領発揮への片鱗
そんな中、時空を使ったトリックが描かれた「トンネル現象」で
“「空間のひずみだろうな」
「何だそれは」
「空間がところどころ、四次元的に歪曲していることさ。空間のひずみによってできた穴の片方から入り、片方から出るということさ。」”(p49)
と本領を発揮されるSF領域での短編も興味深く、筒井康隆と聞いて敷居の高さを感じてしまう方にとって入門編として手頃なタイトルであるものと。