養老孟司先生が、亡き猫 まるへの想いを一冊にまとめた『まる ありがとう』を読了。
サイン本販売情報に反応し
入手していた経緯。
養老孟司先生を熱心にフォローしておらずとも、養老家の一員に猫がいて、その名が「まる」であることを承知していましたが、
冒頭の「まえがき」で、
” まるの死について、あちこちから感想を聞かれることがあった。”(p1)
との前段を受けて、
” 私は感情や自分の想いを書いたり語ったりすることが好きではないので、はかばかしい返答をしたことはない。
大津君はそこを上手に切り抜けて、本人が嫌がるのを無理にというわけではなく、粘り強く取材を重ねて、まるへの想いを1冊の本に仕上げてくれた。”(p1/註:大津君=養老孟司先生旧知の大津薫さん)
というのが本書。
その堂々たる佇まい
” まるはNHKの番組になったことで、ずいぶんと知名度が上がった。ドキュメンタリージャパンという制作会社のディレクター永井朝香さんは最初、私がいつも仕事をしている鎌倉の書斎を取材するために訪ねてきたのだが、打ち合わせの時、初めに玄関で迎えたのが、まるだった。廊下のど真ん中に座り、恰幅の良さとあまりに堂々とした態度に永井さんは驚いたらしい。
そして打ち合わせ中にも、私にえさをねだったり、ドアを開けろといってきたりして話が中断する。
取材が始まってからも同様で、私がインタビューに真面目に答えているとレンズの前に、どさっとお構いなしに割り込んでくる。
そんなことが繰り返されているうちに、面倒くさくなって「いっそ、こいつを撮ってよ」ということになった。”(p12)
というまるが広く世間にお披露めされることになったきっかけに、家族として迎えられた日から
” まるが屋根の上でひなたぼっこをしているのを見てたら、カラスが来て背中を突っついてきた。カラスも相手に死期が迫っているのを分かっているのである。”(p19)
という覚悟を求められた晩年の日々に、
” 人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。
まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである。”(p76-77)
とまるから学ばされたこともろもろ。
養老先生流に惜別
現役で猫、犬と暮らすものとしては共感に、考えさせらたりといった内容が散見され、
本全体では文章 7(秘書の平井玲子さん分を含む)、まるの写真 3の割合といった印象で、ヴィジュアルにも留意され
「あとがき」まで173頁。読み手をさほど重たくさせない形で、まるへの想い、在りし日の思い出が満載されている著書でありました。