養老孟司先生に学ぶ、京都の魅力:『京都の壁』読了

養老孟司先生の『京都の壁』を読了。

先日参加したトークイベントに参加する際、

<< 2017年9月7日投稿:画像は投稿にリンク >> 養老孟司先生に学ぶ、地域(地方)を大切にすることの意義:養老孟司先生『地域人』創刊2周年記念 トーク&サイン会 参加記

トーク後に開催されるサイン会用に購入した一冊でしたが、

京都から帰ってきて程なくという巡り合わせで、読むにいいタイミングでした。

「京都の壁」とは

内容は、鎌倉生まれの鎌倉育ちでいらっしゃる養老孟司先生が、

” 京都以外の出身者から見た京都論というのは、視点が変わっておもしろいかもしれない。そんなわけでこの本の執筆をお引き受けすることにしました。”(p3)

という視点から、

” 日本では城郭を造らなかったので、代わりにできた結界、それが「心の壁」です。

京都人の中にある「心の壁」は、住んでいる場所の話を聞いていると、端的にわかります。

京都市の真ん中、いわゆる洛中に住んでいる人と、それ以外のエリアに住んでいる人。

関東出身に私には、「同じ京都市内じゃないか」と思えるのですが、どうも違うらしい。

洛中とは御所を中心とした京都市の中心部。具体的には北は北大路、東は東大路、西は西大路、そして南は九条通あたりまでの中に入るエリアを指すようです。

このエリアの外に位置するところ、たとえば山科区や伏見区に住んでいる人は、「うちは京都じゃありません」と言うのです。

そんな具合ですから、京都市ではなく、京都府下の人など問題外。舞鶴市や亀岡市の住民を「京都人」とは言いません。

事実、住んでいる本人たちがそう思っていない。そこには明らかに「心の壁」が存在するのです。”(p22-23)

「心の壁(心理的な障壁)」について

” 囲むといえば、日本の障子だったら、うちのネコでも開けますよ。では、何のためにあるのか?あれは心理的な障壁です。

子どもは障子に穴を開けてのぞきたがる。あんなものは子どもだって開けられるのだから、開ければいいのです。

それなのに穴を開けるというのは、「開けてはいけない」ということを叩き込まれているからでしょう。

それが外国人、特に欧米人にはわからない。「開けてはいけない」「入ってはいけない」という心理的な障壁が、京都に城郭がない理由です。

城郭はないけれど、代わりに心理的な壁をつくったのです。それが今も京都には残っていて、「よそ者は入れない」というわけです。”(p27-28)

但し、この傾向は京都に限ったことではなく

” 京都の人だけがよそ者を排除しているのではなく、内と外を区切る日本の典型が京都だということだけです。

どんな共同体でも、長くそこに暮らしていないと仲間には入れてもらえないのですから “(p29)

日本の典型的な一面を表したものだと。と、冒頭の

” 観光都市として人気の一方で「京都はよそ者を寄せつけない」「お高くとまっている」「いけず(意地悪)」といった批判に度々されることはご承知の通り。”(p3)

という京都の土地柄、京都人の気質といったことへの考察にはじまり、

” 今の人たちが都会の人間になったということは、結局、根無し草になったということです。地域の共同体に属していない。ただ、そのことに気がついていないのです。

人間はやはり、社会性を持った動物です。人との関わりを持たずに生きていくことは難しい。

京都がおもしろいのは、都会なのに、共同体が残っているところでしょう。

都会といえばニューヨークのように、あちこちから人が来て、ぐじゃぐじゃになってしまいがちですが、京都はそうではないのです。”(p60-61)

という(京都の)特質への言及など、

全10章/202ページに及んで養老孟司先生が感じ、導き出された京都論が展開されています。

その「京都」なるものの正体

結論は本の最後、「京都の魅力」と題された項目で

” 京都は長い時代を経て、「鴨川の水のように、世の中は諸行無常である」ということを体験してきた人たちの街です。

平安な「情報の時代」も、乱世の「身体の時代」も両方ちゃんと知っています。そして、それは乱世を経験していない江戸(東京)にはない考え方です。

・・中略・・

京都が持っている古都の雰囲気、目には見えない雰囲気を、「空気を読む」「空気を醸し出す」などと言いますが、

京都が持っている空気みたいなものが非常に大事だと思います。「あ、これ、京都だな」という土地の雰囲気がある。

そういうものは行かなければ感じることができませんし、決して手にできないものです。

むしろ手にできないから、空気という言葉になっているのでしょう。

・・中略・・

京都の雰囲気は京都に来てこそわかるもの。だから私を含めて、人は京都に足を運ぶのでしょう。

たとえそこに、見えない「京都の壁」があったとしても。

そして、その京都の壁は、本来は京都だけではなく、日本の街には必ず存在していた地域共同体”の壁なのです。(p201)

など簡潔にまとめられており、すっきりした読後感を与えてくれます。

私自身、仕事にプライベートで京都を訪れること数度。

最後に引用した京都の雰囲気も「あぁ」といった感じで何となく感じられていたことで、

ただ感じてはいながらも、上手く言語化出来ていなかった「京都」を上手く養老孟司先生に噛み砕いて(表現)いただいた思いです。

また、京都に足を運んだ際、より京都の魅力に浸れるであろうと、その奥深い京都の魅力の手引書として良き出会いでありました。

 


Comments

comments